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「笑ゥせえるすまん」喪黒福造とは、結局何者だったのか?

今回は、アニメ「笑ゥせえるすまん」について書いてみたい。
これは、多くの人が知ってる作品だろう。
喪黒福造の出てくる、ブラックコメディの名作だね。
原作者は藤子不二雄A先生。
「ドラえもん」等を描いたF先生ではなく、「怪物くん」等を描いたA先生の方だ。

「笑ゥせえるすまん」(1989年~)

そもそも、F先生とA先生では作風がかなり違うんです。

<F先生の代表作>

・ドラえもん
・パーマン
・キテレツ大百科
・エスパー魔美
・21エモン
etc

<A先生の代表作>

・ハットリくん
・怪物くん
・プロゴルファー猿
・笑ゥせえるすまん
・まんが道
etc

どっちかというとF先生がSF色の強い作風であるのに対して、A先生はダークファンタジー色が強い。
また、F先生が最後まで「子供向け漫画」というコンセプトを崩さなかったのに対して、A先生のキャリア後半は明らかに「オトナ向け漫画」へと舵を切っていた。
「笑ゥせえるすまん」もまた、明らかにオトナ向けの作品。

<藤子不二雄>の両先生

上の写真の右がF先生、左がA先生ね。
いやいや、いまどき漫画家が室内でもベレー帽って、ベタだよなぁ・・。
こんなの、手塚先生とF先生ぐらいなもんだろう。
それに対し、A先生は色付きのメガネをかけてたりして、少し小洒落てるんですよ。
割と垢抜けている。
そう、A先生といえば

「魔太郎がくる」

こういう作風の作品が結構あるもんだから、多くの人が先生自身「陰キャ」系と誤解してるんだよね。
でも、実はそうじゃない。
どちらかというとA先生は明るく社交的なキャラで、むしろ非社交的なのはメディアにほとんど露出しなかった、F先生の方だったのでは?

F先生は、「漫画家らしい漫画家」というタイプ。
対してA先生は、そういうのとは少しニュアンスが違う。
私なりの解釈として

「作家性に強みのあるF先生、企画力に強みのあるA先生」


というイメージ。
正直、「真の天才」といえるのはF先生の方だったと思うが、A先生の凄さは企画そのものの面白さ、そしてその発想力の方なんだよ。

「一般家庭に忍者が居候してたらウケるよね?」
「ドラキュラ、フランケン、狼男がトリオでご近所にいたらウケるよね?」
「プロゴルファーが猿ってウケるよね?」

といった感じで、漫画以前にアイデア自体が面白い。
もちろん、「笑ゥせえるすまん」もそうである。

TBSの人気TV番組だった「ギミアぶれいく」

思えば「笑ゥせえるすまん」は、80年代のTBS人気番組「ギミアぶれいく」の中で放送されるショートアニメのコーナーだったんだ。
この番組は、MCが大橋巨泉や石坂浩二ということからして、割と視聴者層は高めだったと思う。
大橋巨泉の番組かぁ・・。
なんか、バブリーなイメージだよね。

80年代終盤。
まさに、バブル時代の最盛期じゃん。
みんなウェ~イとかいってる、イケイケの時代。
きっとA先生はマーケティング型作家として、この時代の空気を読んでいたと思う。
私が思うに、A先生は取材による情報収集をもって描くタイプだったんじゃないかな?
その情報源ってやつは、おそらく「夜の街」でしょ。
特にバブル時代のA先生って、かなり夜は豪遊してたらしいから・・。

ちばてつや先生が描いた、藤子不二雄A先生

とにかく、日本が元気な時代だったのさ。
なんせ、SONYが米国コロンビアピクチャーズをまるごと買収しちゃったぐらいだから(1989年)。
そういう時代の空気として、ヒットする作品というのも大体がこんな感じ↓↓だったと思う。

こういう映画がヒットしていた時代

それこそ、ユーミンの曲とかがめっちゃ流行るような華やかな空気の中で、「笑ゥせえるすまん」のようなブラックな作品は極めて異質なものだったといっていいだろう。
・・ところが不思議なもんで、出したらこれが予想外にウケちゃったんだよなぁ。

また何より興味深いのは、この作品がブレイクした直後、

いきなりバブル経済は崩壊。


日本はそこから一気に未曽有の不景気へと堕ちていくことに・・。
それこそ、喪黒福造に、

        ド~ン!!

と、思いっきりやられてしまったような気もするよ。
こいつ、作品の内容通り、実は本質が疫病神だったんじゃね?

 第100話「今仁見手郎の秘密復讐計画表」

讐計画表」

さて、ここで少し作品の内容に触れてみよう。
この第100話「今仁見手郎の秘密復讐計画表」は、私がこのシリーズの中で最も好きなエピソードのひとつ。
通常回は長さが10分だが、この回はスペシャルなので30分。
ちなみに、この回の何が凄いかというと、

喪黒福造の暗殺を謀る人物が遂に出てきたことさ。


その人物というのが、この回の主人公、今仁見手郎(いまにみてろう)くんである。
まだ小学生と侮るなかれ、彼は子供ながらも知略に長け、冷酷も兼ね備えた真性のサイコパスだよ。

彼は、いじめられっ子なんだ。
でも、そのいじめの詳細を全てノートに記録しており、ポイント制で「星が10個たまったら復讐を実行」という一定のルールがあるらしい。

「DETH NOTE」の元ネタって、まさかこれじゃないよな(笑)?
で、このDETH NOTEに名前が載ってるのが、近所の猫、近所の犬、あと学校のクラスメイトのガマグチくん。
この中で少なくとも犬は、復讐実行の末、死亡したものと思われる。

そしてガマグチくんは落とし穴に落とされ、さらにその穴にフタをされて、ずっと放置されていた。
このまま死ぬのかな?と思ったら、たまたま誰かに発見されたようで、一応救助された様子。
でも見手郎的には多分、あのまま殺すつもだったんだろう。
怖いわ~。
で、これらの行動を全て目撃していた喪黒は、見手郎から「危険人物」認定され、彼もまた暗殺対象となる。

見手郎が、対喪黒福造として準備した武器は、なんとボウガン。

・・だけどまぁ、そもそも喪黒は人間じゃないですからね。
そういう物理攻撃はやはり効果ないたみたいで、最後は結局、

        ド~ン!!

オチははっきり分からなかったが、多分、見手郎はもう生きてないと思う。

これは92年頃の作品で、小学生のサイコパスをここまで明確に描いたのは、おそらく本作が初めてでしょ。
F先生が描く、のび太くんの裏バージョンとでもいうべき見手郎。
ブラックだよなぁ~。
しかし、見手郎は凄い子なんだよ。
のび太くんみたくドラえもんみたいな助っ人に頼るでなく、全て独力で暗殺計画を企画し、準備し、実行している。
今でこそ、このてのサイコホラー系も珍しくはなくなったものの、でも92年の時点でこういうアニメを日本で輩出した、A先生ってやっぱ凄いのよ。

ひょっとしたらA先生は、あの時代の空気の中に、闇の萌芽を既に感じていたのかもしれないね。

あぁ、もはや右肩上がりのイケイケの時代は長くは続かんな、と。
先生自身が銀座で豪遊しつつ、どこか限界のようなものを感じていたのかもしれん。
実際、「笑ゥせえるすまん」内の描写を見ると、多くのサラリーマンたちはめっちゃ疲れてるのよ。
で、最後のオチは、「ドロップアウト」という形で決着するケースが非常に多いんだ。

第1話「たのもしい顔」

第1話のオチからして、これだから・・。
いや、今の時代はこういうオチを見ても、さほど誰も驚かないのかもしれん。
これだけ「ニート」「引きこもり」が増えてる時代ゆえ、こういうオッサンもそりゃ普通にいるでしょ、と比較的冷静に捉えられると思う、
でも、この第1話が放送された1989年ってのは、まだ「ニート」なんて言葉すら全く浸透してなかった時代だよ?
そのへんを踏まえると、A先生の未来予見のセンスは恐ろしいものがあったといっていい。
やはりこの人、マーケティング型作家だね。
時代を読む人だったんだ。

A先生の描いた喪黒福造というキャラクターは、それこそ時代にじわじわと忍び寄り、日本をじわじわと蝕んでいた「闇」そのものを象徴してたように思えるよ。


この作品、ただのブラックコメディと侮るべきではない。


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