& episode024
あっという間だ。
くにちゃんと過ごして、あと数ヶ月で一年になる。
すっかりアメリカでの暮らしになれ、友人も増えた。
最近、僕が仲良くしているのは、ロージャというロシア人だ。
彼はエンジニアで、今、熱いのは仮想通貨だと言う。
でも、と彼は続ける。
「もともと「中央集権ではなくても通貨が発行できる」というコンセプトによって注目されているが、僕は中央集権によって仮想通貨が発行されると考えている」という。
「それで?」
と、僕は熱いコーヒーを入れながら、バターナイフでボルシチに添えるバケットをアレンジするロージャに聞き返す。
「結果的には、通貨の仕組みは今と変わらない」
オススメの厚くバターとパテを塗ったバケットを僕に見せながら、彼はこう続けた。
「各国が発行する通貨の単位が増える。面白いのは、日本でいう銭や厘といった見直された単位と、最上位の単位が生まれてくると思っている。」
湯気を立てるボルシチを、ほおばりながら彼は言った。
「それによって、幸せになる人の数が安定的に増える。僕はそう想う。」
『幸せになる人の数。』
「結果、これまで援助の対象だった貧困層が大きく減り、市場で活躍するプレーヤーが増える」
バターは厚くだよと、と僕にレクチャーしながら、
「『ほんとうに面白い時代』になる」
と、嬉しそうに話す。
コーヒーを差し出すと、まずはワインからと母国から取り寄せたシャトー・タマーニュ クラスノストップを鞄から取り出し、僕にも勧めてくれた。
「面白いし、いい時代だね」
「考え方が違うと、衝突が生まれる。母国を見ているとそう痛感する。だけど、お金が仲良しになると考え方も変わる。今、すぐに仲良しになれないのは、各国の通貨の価値に差が開きすぎている。21世紀なんだし、もっと、近寄える仕組み。それが、仮想通貨という技術なんだって僕は想っている」
僕も彼がアレンジしたバケットでボルシチをほおばった。
ロージャのエンジニアっぽい、少年らしさがより一層美味しさを増してくれた気がした。
今回ロージャと乾杯した「シャトー・タマーニュ クラスノストップ」はこちら。
https://item.rakuten.co.jp/gorrion/10000477/