三百円のデヴィ
デヴィって名前のうさぎを飼ってたんだ
名付けたのは彼女だった
ペットショップでセールされて、
値札は何度も上書きされて、
最後には三百円って貼られてた
それみて急に込み上げてきて
こんなの、ひでぇじゃねえかって
勝手に繁殖して、
勝手に陳列して、
勝手に値段決めて
でっかい水槽みたいなアクリル板の向こう側で
この世の全てに興味が無いみたいな素振りで
ただひたすらに鼻をひくつかせているうさぎ
展望なんてなんもない
人生なんて知ったこっちゃない
こちとら神様に言われた通り生きてるに過ぎない
だってのに、一方的に安くするなんて
ふざけろよ
って思わず買ってしまったんだ
そしたら彼女が、
「あたし動物嫌いなんだ。臭いから」ってさ
だけど悩む必要なんかなかったよ
あいつはすぐに消えたから
だけど最後の置き土産で、
うさぎに名前をつけてったんだ
デヴィ夫人みたいな柄してるって言ってさ
笑えるよな
なんだよデヴィ夫人みたいな柄って
センスねえよな
でも俺、実を言うと案外気に入ったんだ
今はもう、女もデヴィもいないけど
女とどうして別れたのかって?
そうかい、うさぎには興味ねえのか
俺には大事なうさぎだったんだけどな
いや、なんでもない
今日は満月って言いたかっただけ
まあいいさ、飯でも食おうや
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