地べたで楽しむインドネシア人
ジョグジャカルタの王宮広場を訪れた。地元のお楽しみスポットである。
週末夜の王宮広場アルン・アルンは熱気で包まれている。人でごった返している。大騒ぎである。
人出の多さで言えば、マリオボロ通りや、マリオボロ通り沿いのブリンハルジョ市場Pasar Beringharjoもかなりものであるし、パクウォンモールやプラザ・アンバルクモといったモールも休日には多くの人でごった返す。
アルン・アルンの賑わいは、そうした他のエリアの賑わいとはまったく異なるものである。インドネシアあるいはジャワに対して理解を深めたいなら、アルン・アルンを訪問すべきである。
アルン・アルンとは?
アルン・アルンは都市の中心部にある広場を指す。ジャワの都市では、歴史的にアルン・アルンを中心にモスク、市場、王宮あるいは統治の中心が中心部を構成する形式をとってきた。北の海岸沿いのチルボン、デマック、グレシックや内陸のクディリやスラカルタ、ジョグジャはいずれもそうした歴史を持つ都市である。
ジョグジャでは、世界遺産登録の際に強調された北のムラピ山と南の海とをつなぐ宇宙軸にそって、王宮を挟んで北と南にアルン・アルンが位置している。北のアルン・アルンをアルン・アルン・ロル、南のアルン・アルンをアルン・アルン・キドゥルと呼んでいる。
ジョグジャでは、アルン・アルン・ロルを中心に、西にモスク、南に王宮、北に市場が配置されている。信仰のためのモスク、商業・賑わいのための市場、市民のための広場、統治のための王宮が統合されているのである。
多くの都市ではアルン・アルンは1つであるが、ジョグジャでは2つアルン・アルンがある。海の神ニャイ・ロロ・キドゥルに対して、王宮の正面を意識させるために用意されたのが、今回のアルン・アルン・キドゥルだという。
市民の憩いの場 アルン・アルン
そうした歴史的な背景のあるアルン・アルンであるが、現在はジョグジャの市民の憩いの広場として愛されている。
特に週末になると、広場には多くの人であふれかえる。塗り絵を楽しむエリアが数箇所出現する。そこでは、子どもだけでなく若者たちも塗り絵に興じている。テンポラリーな店舗もあちらこちらに現れる。多くの人々は、広場周辺にその時だけ出店される飲食店で、ご飯や飲み物を買い、地面に座って休日の夜を楽しむ。男女のカップルも多いが、女性2人でご飯を食べているケースも多い。もちろん家族でやってきて、地面に座って飲食を楽しむグループも多く見られる。
外の空間を楽しむインドネシア人の真骨頂を見ることができる。ただただ広場で友人や家族と語りあうことが彼らの日常の幸せなのである。
目隠しをして歩く
目隠しをしてさまよっている2人も目にする。マサンギンという神話上の儀式にもとづいているという。2人といっても、目隠しをしているのは1人だけである。1人は周りの人にぶつからないように注意を払う役割を担う。これは、広場の中心にあるガジュマルの木の間を、目を閉じて通り抜けると願いが叶うという神話によるものである。目隠しは自分のものを持参しても良いが、5000ルピアで貸し出しサービスも行われており、多くの人はそのサービスを利用している。
迷いや煩悩があれば、目的に沿って自分の想いを達成できないということを教えてくれる。実際に挑戦しているのを見ていると、最初はスタスタと真っ直ぐ歩いていても、途中で立ち止まり、悩みながら左右に大きく旋回していく人を多く目にした。ただ単に30〜40mを目隠しして歩くだけであるが、なかなか難しいようである。
広場周りの出店
広場の周りのスペースは、出店スペースになる。道路はバイクの駐輪がずらっと並んだり、子どもや家族向けに貸し出される乗り物の置き場になるので、歩道沿いの店舗にはなかなかアクセスしにくいが、周辺にはジュースやデザート、ご飯など様々な店舗が並んでいる。
持ち帰りで注文して、広場で食べる人たちも多いが、その場で食べることもできる。地面にゴザがひかれているスペースがあり、そこでは多くの人々が食事をとっている。移動式店舗やテンポラリーな調理スペースで調理されたものが、ゴザ上のテーブルに用意される。さほど選択肢はないが、ナシゴレンやフライドチキンなどシンプルなインドネシア料理を食べることができる。その場でとうもろこしを甘辛く焼いたものを食べることもできる。
アルン・アルンで感じるジャワ
地面との近い感じにジャワを感じる。伝統的には、インドネシアの中でも多くのエリアで高床式住居が多いが、ジャワでは地面に座る形式の住居が多い。多くの住居が現代化される中で、地面にゴザを敷いて座る形式を体験できるのは面白い。
そういう視点で広場の中の人たちを見ると、一部、ゴザを貸し出して集客しているエリアでは、皆ゴザに座っているが、ほとんどの人は地面に直に座っている。地面といっても数センチの草が一面に生えているので、汚れることはさほどないが、それでも個人的には若干の忌避感はある。シートや椅子を用意している人はほとんどなく、ほとんどの人が、地面に直接座っている様に勝手にジャワを感じた。
マリオボロやモールの現代的なインドネシアだけでなく、新しいながらも様々なかたちで伝統を感じることのできるアルン・アルン・キドゥルの夜をぜひお勧めしたい。241014