【ネパール料理】ご飯に飽きたら麺を食べればいいじゃない
ネパール麺「トゥクパ」の魅力についてまとめました。
ダルバート以外のネパール料理の楽しみ方を発見する一助となれば幸いです。
・ネパール料理といえば?
カレーや南アジアの料理が好きな人なら、十中八九「ダルバート」を思い浮かべるのではないでしょうか(ダルバートが何かということについては、ここで触れる必要はないと思われるので説明は割愛します)。
ダルバートには、ご飯に豆のカレーといくつかの副菜が付いて、食事として概ねバランスが取れていますし、(お店によっては)無料でおかわりもできて、最近ではあまり聞かれなくなったものの「ワンコインダルバート」という言葉があるくらい気軽に食べられる点も魅力的です。
特に多数のネパール料理店が立ち並ぶ東京都新宿区の大久保駅・新大久保駅周辺(以下「大久保」とする)には、ランチ・ディナー通し営業のお店が多く、価格も安いため、どのお店も日夜ネパール人客で賑わっているのは勿論のこと、日本人でも色々なお店のダルバートを好んで食べ歩いている人も多いと思われます。
・ネパール料理店飽和事情
しかし最近、ネパール料理店、特に大久保界隈について、身の回りでこんな声をちらほら耳にするようになりました。
「大久保って沢山ネパールのお店があるけど、正直あまり違いがわからない」
「断トツでここがオススメ!と言えるお店がない」
もしかしたら、同じように感じている人も少なくはないかもしれません。
中には「あんなもんどこで食ったって一緒だ」などと言う人までいる有様です。
これらの意見について、完全な同意はしかねますが、言いたいことはとてもよくわかります。
大久保は現在、実に30以上のネパール料理店がしのぎを削る、文字どおりの激戦区です(大久保がここまでのネパール料理激戦区になるに至った経緯については、ライターの田嶋章博さんが執筆された記事がわかりやすいので是非ご参照ください)。
それだけ多くのネパール料理店が同じダルバートというスタイルを採るとなれば、方向性が重複するお店が出てきても不思議なことではないでしょう。
違いがないという点への反論としては、ダールひとつ取っても、豆の種類や仕上がり(風味や食感・質感)などで、段違いとまでは言えなくともお店によってそれなりに差異はありますし、サーグやアチャール、タルカリなどについても同様のことが言えます。
また、ダルバート以外の料理に目を向ければ、サイドメニュー(バラ・ウォー・セルロティなど)やおつまみメニュー(セクワ・チョエラ・スクティ・ホルモン系メニュー・カジャセットなど)の種類、ドリンクやデザート類の充実度まで含めて見ると、お店によってかなり違いがあります。
さらに、ネパールの民族事情については浅学のため詳しくは触れませんが、多民族国家であるネパールでは食文化も民族ごとに異なり、例えば豚肉料理の有無など、ダルバートの内容にも注意して見れば差別化されている点も決して少なくはありません。
とはいえ、大多数の人は恐らくそこまで細かな違いは意識しないでしょうし、個々のアイテムではなく一括りの食事としてダルバートを見た場合、どうしても似たり寄ったりだとか、類似品などといったような印象を抱いてしまうのも無理はないのかもしれません。
東京都内ならば、大久保を擁する新宿区外に目を向ければ、料理の独自性が強くシェフに熱烈なファンが付いているお店や、最近ではモダンネパール料理と呼ばれるような新規性のある料理を出すお店も見られます。
しかし、こと大久保の、少なくともダルバートに限って言えば、日本人の目からは30以上もあるお店がそれぞれ明確に差別化できているとは言い難いように思われます。
だからといって、大久保のネパール料理店はどこも一緒だなどと言ってしまうのは、あまりにも早計に過ぎます。
今回は、数あるネパール料理店の違いを楽しむ一つの方法として、ネパール料理店の「ごはん処」「居酒屋」としてではなく「麺処」としての利用を提案します。
・ネパールの麺料理「トゥクパ」とは?
引用元としては賛否あると思われますが、ウィキペディアからトゥクパについての概要を以下に抜粋します。
「トゥクパは、チベット文化圏で作られる、日本のうどんに似た食べ物。…一般に汁は塩味で、少しの野菜と、時にマトンやヤクの肉が加えられる。伝統的には、日本の手延べうどんと同様の製法で小麦粉を用いて製麺され、肉が入ったものは日本の肉うどんと驚くほど味が似ている。現地では、麺にパスタを用いてもトゥクパと称される。」
早い話が、チベット発祥の汁物系麺料理です。
ネパールがチベット文化圏に含まれるのかはともかく、恐らく地理的に近いこともあってか、ネパール料理店では、トゥクパや餃子状の料理「モモ」など、チベット発祥とされる料理もメニューとして一般的です。
ダルバートは食べたことがあっても、トゥクパを食べたことはないという人は多いのではないでしょうか。
実はこのトゥクパ、お店によって方向性がまるで異なる上に、食べてみるまでどんな味なのか見当がつかない、意外性の塊のような料理なのです。
大久保のネパール料理店では「チキン」「マトン」「ミックス(チキンとゆで卵)」の3種類が選べることが多く、店によっては「ベジタブル」も選択肢に含まれていることもあります。
麺は、先に抜粋したウィキペディアの説明はうどんを想起させますが、どちらかと言えば日本の小中学校の給食で出てくるような(地域によっては出てこないかもしれませんが)ソフト麺を出すお店が多く、麺そのもののバリエーションは多くはないかもしれません。
問題は、具の内容とスープです。
決して多くのトゥクパを食べ比べてきたわけではありませんが、以下に大久保のネパール料理店で提供されているトゥクパの一部を紹介します。
ベジタブルトゥクパ。スープはレモンと思しき酸味が効いていて、具は大きくカットされたトマトやニンジンが入っています。
チキントゥクパ。スープはほぼゴルベラコアチャールそのままの味。上に乗っているのはダルバートに入っているのと同じサーグで、ククラコマス(チキンカレー)に入っているのと恐らく同じお肉が入っています。乱暴に言えば、ダルバートの一部が麺とスープに生まれ変わったような内容。
ミックストゥクパ(チキン・ゆで卵)。ニンニクが強めに効いたスープ。鶏肉とゆで卵だけでなく、長崎ちゃんぽんの如くキャベツやピーマンなどの野菜がゴロゴロ入っています。
これらはほんの一例に過ぎませんが、どれも「カレーうどん」とは全く異なり、そばでもなければラーメンでもない、唯一無二の麺料理でした。
正直なところ、一口食べて「これはうまい!」と唸るようなトゥクパや、メディアに取り上げられたり行列ができそうなトゥクパには出会ったことはないですし、多分トゥクパという料理の魅力自体そういう類のものではないと思われます。
麺はいわゆるソフト麺、味付けはカレーではないが何となくスパイシー、野菜たっぷり具沢山とあって、日本人的感覚としては「大衆食堂の五目ラーメン」あたりが近い位置づけかもしれません。
さらに付け足すと、先に書いたとおり、どのお店のトゥクパも注文して食べてみるまでどんな味付けか(ウェブ上の口コミなどからある程度の予測はできるかもしれませんが)見当がつかないという特徴があります。
これは、もしかしたらダルバートに食傷している人にとっては魅力的に映るのではないでしょうか。
断定はできませんが、食傷するほどにダルバートを食べ歩く時点で、その人はある程度の凝り性、いわゆる好事家である可能性が高いと思われます。
そんな人がダルバートやスクティやモモにマンネリを感じていたところに、未知の麺メニューが現れた…となれば、そこに手が伸びるのは自然の成り行きではないでしょうか。
蓋を開けてみなければわからない料理となると二の足を踏むのが普通かもしれませんが、好事家と呼ばれる人の中にはそういったものを喜んで食べる人も少なくはないはずです。
飲み会の終わりに締めラーメンに代わって締めトゥクパも良いかもしれません。
・ダルバートに飽き飽きしてきた
・素朴なラーメンが食べたい
・飲みの締めメニューにバリエーションが欲しい
トゥクパという選択肢があることを頭の片隅に入れておけば、そんなときに食事がより豊かなものになるかもしれません。
・第二第三の麺「チョウメン」「チャウチャウ」
ネパール料理店では、トゥクパの他に「チョウメン(チャウミン)」「チャウチャウ」などの麺メニューがあることもよくあります。
ネパール料理店を余すところなく楽しむアイテムとして、これらの麺も是非オススメしたいメニューです。
例によって、ウィキペディアからチョウメンについての概要を以下に抜粋します。
「炒麺(チャーメン、チャウミン 英: Chow mein)は中華麺を使った中華料理の一つ。日本でいうところの焼きそば。…インドやネパールにおいてもポピュラーな料理であり、都市から田舎まであらゆるレストランで取り扱われている。いわゆるカレーに類似した料理が常食の地域らしく、様々な香辛料(ガラムマサラ)と食材を一緒に煮込んで作られる。」
トゥクパがうどんかラーメンだとすれば、チョウメンは焼きそばに近い料理です。
あくまで個人的な見解ですが、トゥクパに比べると、チョウメンの方がお店ごとの差異は少ないかもしれません。
とはいえ、お箸で食べるような焼きそばに近いチョウメンばかりかと思えば、お店によってはスパゲッティナポリタンのように濃厚なトマトソースにパスタ状のチョウメンで意表を突いてくる場合もあり、これもまた侮れません。
チャウチャウは「ネパールのベビースターラーメン」と表現されることも多いインスタント麺で、ハラールショップでもよく売られています。
「ワイワイ」という名前の方がよく見かけるかもしれませんが、「ワイワイ」は商品名で、「チャウチャウ」は一般名詞です。
ネパール料理店ではチャウチャウ(ワイワイ)と野菜をスパイスで合えて味付けした「チャウチャウサデコ(ワイワイサデコ)」が定番メニューですが、単純に茹でて、まさしくインスタント麺としての本来の用途そのものとして食べられるお店もあります(上に載せた写真は茹で麺として出されたもの)。
どちらもザ・ジャンクフードといったような味で、軽食としても、ビールのお供としてもオススメです。
先に書いたとおり、ベビースターラーメンのようでもあるのですが、個人的にはブタメンのカレー味は、茹でたワイワイにかなり近いのではないかと思っています。
比較的新しい駄菓子なので、一定の年齢以上の人には伝わりにくいかもしれませんが、100円均一などでは今でもよく見かけるので、興味のある方は是非ワイワイと食べ比べてみていただきたいです。
・最後に:ダルバート以外のネパール料理も食べてみよう
少し尖っているけれどどこか素朴で、野菜たっぷりで体が温まるネパールの五目麺、トゥクパ。
ダルバートやおつまみメニューの他にも、こんな料理も選択肢にあると考えれば、ネパール料理店の楽しみ方にも広がりを見出せるのではないか。
「ネパール料理なんてどこで食ったって一緒じゃん」なんて言わないで、色々な楽しみ方があることに気付いて、ネパール人と同じくらいネパール料理店を楽しんでほしい。
そう思って今回この記事を書くに至りました。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。