「洞窟壁画考」(五十嵐ジャンヌ著、青土社)
読了日: 2024/2/17
洞窟壁画を「何を」(第Ⅰ部)、「どうやって」(第Ⅱ部)、「なぜ」(第Ⅲ部)、「いつ」(第Ⅳ部)、「どこに」(第Ⅴ部)、「だれが」(第Ⅵ部)にわけて考察してゆきます。
いずれも発見当時(主に19世紀~)からの各分野の研究者の論考を紹介しながら、研究者らしい脚色のない事実を示してくれています。
旧石器時代の人類がなぜ、いかに(冒頭部建てのとおり)壁面に画像を描いたのか、人類学や芸術を跨ぐ分野でとても興味深く(「おわりに」にあるように著者の興味とほぼ同位であることも共感をおぼえました)、ややボリュームのある本ですが飽くことなく読み終わりました。洞窟壁画に関する本を初めて読んだのですが、良著だと思います。
具象画(主に動物)から、当時の気候・環境を背景に生活環境や、描かれる対象の意義を考察したり、記号的抽象画(幾何学図形)の示すもへの推察、なぜ描くのか、という動機への推察(遊戯説、呪術説、トーテミズム、シャーマニズム、構造主義的研究)、年代特定の方法(遺物包含層からの推定、放射性炭素年代測定法、ウラン系列法)、確認されている壁画の分布から、ホモ・サピエンスの移動と社会・文化醸成との関係性など、おおよそ知りたい範囲は網羅されているように感じました。
著者はそれでもある程度限定的にまとめざるを得なかったとしていますが、それは致し方ないことであるし、すべての分野を考慮し始めると読み物としては巨大になりすぎる気もします。
やや余談ですが(本書内でもふれられていますが)、放射性炭素年代測定は福井県三方五湖の水月湖の年縞をもとに同定されています。(参照:「人類と気候の10万年史」中川毅著、講談社)
著者は東京芸大卒業、大阪大学大学院修了、フランス国立自然史博物館にて博士号取得、1990~2020の間にフランス、スペインの洞窟壁画を調査研究をされていたとのことです。「世界遺産ラスコー展」(2016-2017)の学術協力担当。
(追記)
149頁に記載のある(図1)の対象図版が見当たらないことを出版社に問い合わせたところ、当該(図1)の記載が誤りであることをご丁寧に回答いただきました。もし本書を読まれる方がいらっしゃれば、ご参考までに。