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『ソフィーの世界〜哲学者からの不思議な手紙』(ヨースタイン・ゴルデル著、須田朗監修、池田香代子訳、NHK出版)

読了日: 2024/7/17

 新装版(ソフトカバー、上下巻)が出ていましたが、ハードカバーのオリジナル版を購読しました。購入版は105刷であり驚きでした。これほど読まれているものを最近まで知りませんでした。

 14歳の少女(ソフィー)のもとにメモや講義ノート、葉書が届くようになり、謎のおじさんにより哲学講義が時系列で繰り広げられてゆきます。
おじさん先生(アルベルト)とソフィーとの会話形式で読者に哲学講義を展開してくれます。
 登場する哲学者(など)は、デモクリトス、ソクラテス、プラトン、アリストテレス、デカルト、スピノザ、ロック、ヒューム、バークリ、カント、ヘーゲル、キルケゴール、マルクス、ダーウィン、フロイトなどです(目次クレジットより。人名タイトル以外の章にも哲学者は登場します)。ギリシャ~近代の主要哲学者をおおむね網羅しているように感じられますが、須田朗氏(監修)以下のように付記しています。

「しかし、サルトルがあるのに、ハイデガーやウィトゲンシュタインは、どうしてないのだ!」と哲学の専門の先生にお叱りを受けるかもしれません。たしかにこの二人の哲学者には、ほとんど触れられていません。しかし彼らにつながる考え方は、この哲学講座にも組み込まれています。なかでも重要なのはハイデガーです。私はこの本の全体にハイデガーの考え方が生かされているのではないかと、ひそかに思っています。
 ハイデガーは、哲学は今も昔も、存在の意味を解明することだと言っています。この哲学観はそのままソフィーの謎を読み解く手助けにもなります。この本では、「存在」とか、「ある」とか、「いる」といったことばが、何回も強調されて出てきます。「私はだれ''であるのか? 私の世界は何である''のか? ヒルデはいる''のか?」とソフィーは自問します。その「存在」という言葉の意味を考えることが、ソフィーの哲学だといってもいいでしょう。

p.658-659 「解説」より

 小生は、ハイデガー、ウィトゲンシュタインを読んだことがないので、またどのような哲学思想であるのかを知りませんので、上記指摘をなるほど!とは(残念ながら)感じられませんでしたが、おそらく要素を含んでいるのでしょう。また、”葉書が届く”というのはジャック・デリダの要素を含んでいるのでしょうか。デリダも原文を読んだわけではないので何とも確定的な指摘はできませんが(小生が読んだのは『存在論的、郵便的 ジャック・デリダについて』(東浩紀著、新潮社、1988)です)。

 本書の醍醐味は、哲学・思想の歴史をわかりやすく読めるという点にもありますが、ストーリーの構成にあると感じました。
《【「 { [ ソフィーとアルベルトの哲学談義 ]
を執筆するアルベルト・クナーグ少佐 }
の執筆ファイルを読むヒルデ」
を執筆する著者(ヨースタイン・ゴルデル)】
の本(本書)を読む私(私たち)》
というパラレルワールドのような経験をさせられます。この構成は須田朗氏(監修)の指摘にも関与する部分かもしれません。とてもよくできている工夫に感じました。

 何事へも「なぜ?」と疑問をもつこと、そしてそれを知りたい欲求が人間にはある、という哲学(あるいはあらゆる学問の基底)の基礎を具現化したような作品に感じました。


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