次こそは君を助けたい
先月末、母と旅行したときの話です。
旅行の最大イベントはコンサートでした。わたしも母も某アーティストのファンで、1月にチケットを購入。コンサート当日を今か今かと心待ちにしていました。
その日は5月にもかかわらず30度超え。17時ごろ最寄り駅に到着したのですが、その時間でも半袖で十分な気温でした。会場まで10分ほど歩いただけでも、じんわり汗がにじみます。
コンサートがはじまり、会場は大盛り上がり。今回は運良くアリーナ席だったので、しっかりと肉眼で本人たちを捉えることができました。コロナウイルス感染拡大対策のため、歓声は禁止。みな拍手で気持ちを表現しており、わたしも母も手拍子で生演奏を楽しみました。
最初はアップテンポな曲が多く、次第に静かなバラード曲へとセットリストが変わります。そのバラード曲の最後あたりで、後ろから「ガタンッ」と音がしました。
アリーナは普段席がないので、全席指定のコンサートになるとスタッフさんが椅子を設置してくれます。会議室でよく使われている、ひじ掛けのない簡易的な椅子です。背もたれに席番号の紙が貼ってあり、それを目当てに自分の場所を探します。
いまではコンサート開催の条件も緩和され、今回のライブは人数制限なし。チケットは完売で、前後左右一席も空くことなくファンで満杯でした。
そのような状況だったので、最初は「誰かが椅子にぶつかったのかな?」と思いました。すぐ横には人がいるし、ぶつかってしまうこともあるだろう……。
しかし曲が終わって照明がゆっくり落ちると、後ろがざわざわとしはじめました。わたしも周りの人たちも異変に気づきましたが、真っ暗で何が起こっているのかはわかりません。
どうしたんだろうと思っているその矢先、ひとりの女性の声が会場に響きました。
「すいません!!スタッフさん来てください!!!」
その一言ですべてがわかりました。さっきの「ガタンッ」という音は、人が倒れた音だったのです。
瞬時に振り返りましたが、5~6列ほど後ろで身動きがとれず、状況を確認することもできませんでした。周りに合わせて静かに着席し、待機することに。ちょうど次がMCだったらしく、座ってから2~3分後にメンバーのひとりが話しはじめました。大丈夫かなと心配しつつも、MCがとてもおもしろく、会場の雰囲気も元通りに。
そのままライブも再開し、最後は会場が幸せな空気につつまれて無事終わりました。
歓声禁止でのコンサート、同じファンとはいえ知らない人だらけの空間、照明が落ち真っ暗な会場。
そのような状況でも「スタッフさん来てください!」と助けを呼んだあの女性は、素晴らしい判断だったなと思います。
そして称賛したいのはその方だけではありません。その声を聞いて、すぐに駆けつけたスタッフさん。ステージの照明は薄暗いまま、アリーナのみライトをつけた照明担当の方。おそらく誰かが倒れたと連絡を受け、とっておきの話で会場を盛り上げてくれたアーティスト本人たち。
スタンド席だった人は事の全貌を目撃したはずですが、そのときの動揺や混乱は広がることはありませんでした。緊急事態にも的確な判断で、迅速に対応したみんなのおかげだと思います。
そういう事態に巻き込まれたとき、わたしはあのときの女性みたいにすぐ大声で助けを呼べるだろうか……。
実をいうと、わたしは以前もこのような場面に出会ったことがあります。4年前、ライブ後にいった居酒屋で横に座っていたお客さんが突然倒れたのです。わたしはびっくりして動くことができません。
すると奥のほうから颯爽と救世主が現れました。どうやら医療系の仕事をしているらしく、過呼吸になってしまったその人に「大丈夫だよ~」と声をかけてあげていました。そして救急車まで手配してしまう手際の良さ。
わたしは混乱して状況の把握すらままならなかったのに……。さすがだなと感動した一方、「何もできなかったな」という反省の気持ちが残りました。
ハプニングはないに越したことはありませんが、次その場面に出くわしたときは、今までのことを思い出して冷静に対応していきたいです。わたしの言動ひとつで、その人を救うことができるのかもしれない。
偶然であったとしても、その場に居合わせた人たちにとって良い空間になるよう、経験を生かしていきます。がんばるぞ!