宇野重規『西洋政治思想史』を読んで
危機の時代には、自由は制限され、国家権力に従わなければならない。でも、それは一時的なものだ。
マルクス・ガブリエルがこう言ったのは、哲学者の言葉というよりも、民主主義の当たり前を表現した言葉に思われます。
ですから、政治的なものは、政府と市民の信頼関係が重要ではないでしょうか。
この本の作者宇野重規氏は、東大教授で、博覧強記の持ち主です。古代の政治思想から現代までの歴史をたったひとりで書いています。
宇野氏は政治の歴史を、映画やドラマのシナリオに例えます。たったひとりの主人公と数名だけで行われようなシナリオは本当に正しいのか。
本来なら、多くの人が関わるのが歴史です。ここでは、本書を通して、政治と私たちとの関係を考えてみたいと思います。
ギリシャ、革命、2月革命
まずは、ギリシャ時代の思想家が参照されます。
統一的な国家がなかったギリシャでは、多様性があり、それぞれの国家が財の配分問題や、国制の権限の問題を考えていきました。
そのなかでも、特に重要なのがアリストテレスです。市民のなかでも中間層を重視し、多数者支配の中で、バランスよく公共の利益にかなうような体制を考えていました。
彼は、今日のような多数者による支配(政府による支配)の場合は、民主制は問題があると考えていたのです。
フランス革命時代の思想家としてエドマンド・バークが挙げられています。
彼は、革命期の急進的な変化に対して批判的です。バークから始まるとされる保守主義の立場は、市民の公共的なものを重視する点では安定を重視します。
昨日までの世界が、一瞬で失われるようでは、生きている意味はない。そう感じる人もいるかもしれないからです。
作者は、バークと公共を重視する現代政治哲学との関連性について指摘していることが興味深いです。
バークより後の世代の思想家としては、トクヴィルが挙げられています。彼は、1830年と1848年革命の時代の人物です。
彼は、アメリカのデモクラシーに影響を受けます。重視するのは、自治と自発的結社と宗教の3点です。
自治と自発的結社の良い点は、一般市民が目的意識をもって、政治参加することと、それによってコミュニティーが活性化することです。
3番目に挙げられる宗教観は、日本人には希薄かもしれません。ですが、日本人の自然に対する感覚は、今日のエコにもつながるような素晴らしいものではないでしょうか(もののけ姫)。
トクヴィルは、今のことだけに集中するのではなく、長期的な視点を重視しました。
ミネルヴァのふくろう
ミネルヴァのふくろうは夜更け過ぎに飛び立つ。
これは、哲学者ヘーゲルの言葉です。
ここでのヘーゲルは、学者としての立場をはっきりとし、政治的スタンスから一歩引いています。今良いと思われていることは、本当に正しいかという判断は学者の立場では保留されます。
こういった学者の姿勢は、バックミラーを見つつも、見えない前方まで見通す。これは、保守主義の立場と共通点があると思われます。
作者の宇野氏は、ヘーゲル的な上から目線の歴史観については、批判的ですが、学者としての立場は支持します。
こうしたバランス感覚が、政治的なものには、特に重要ではないでしょうか。