小説感想[ファーストラブ]
ファーストラブ / 島本理生著
とても好きな作家の好きな作品なので思い入れが強くて、やたらと文章が長いことにな…りそうだったけど、いつまで経っても出せなくなりそうなので、書きたいことだけ書いた。
あと、隙あらばネタバレみたいな感じになっている。
この小説を読んだのは大学生のころだった。
前に同作者の作品として[アンダースタンド・メイビー]を読んでいて、これが作品の感想に大きく影響している。
ファーストラブ、とアンダースタンド・メイビーは共通点がある。
1)主人公が女性で、虐待にあった経験がある
2)主人公が能動的に動くことで、クライマックスに虐待の背景にあった事件や関係者の事情を知ることになる
作者の作品には「暴力」がテーマとして出てくることが多いと思う。初めて読んだ作品、「ナラタージュ」も主題ではなかった(と思っている)が、暴力が絡む描写があった。
アンダースタンド・メイビーは終盤において、主人公が前向きになれるかもしれない、という希望を感じさせる終わりになっている。一方で、やはり前向きにはなれないかもしれない、という不安も感じさせられる。
不安が残るのは、トラウマを思い出すと、身体的に影響が出てくる描写があるからだ。
また、最後の場面が主人公の単身の旅立ちで物理的に恋人とか友達が傍にいない、という部分も不安をそそる。
作品の中では主人公の他者への依存傾向の強さを一貫して書いているのに、最後の場面だけ「一人で頑張ります!」という雰囲気になっているのが、どうしても読んでいて不安になってしまうのだ。
ファーストラブはその点で大きく違っている。主人公が受けた暴力、不条理を自分の心のなかで昇華し、それでも、これから生活は続いていくのだと認識している点で不安を感じさせず前向きな終わり方になっている。
主人公が多感な学生だった頃の描写は最小限になっているのだが、他者との距離の取り方のバランスがとれていないように見られる。これが、社会人になり、様々な過程を得て、家族、知り合い、仕事関係者との距離の取り方に濃淡ができて、必要以上に孤立していたり、依存していたりするように見えない。このため、佳境に入っていくにつれて、他の不安を感じず、主題の解決に集中して作品が読めるようになっている。
小説の展開としては、ファーストラブのほうが、起承転結がはっきりしている。またボリュームも私にとってはほどよかった。初めて島本理生を読む人に進めるなら断然こっちである。
(あくまで2つの作品の中なら)
で、このような言い方をしてるのは、アンダースタンド・メイビーもとても大好きだからである。これもまたいつか記事にしたいなと思う。