消失
誕生
少年が居た。
彼は絵を描くことが好きだった。空を見上げることも、海を眺めることも好きだった。時には歌って踊った。
全ての才能を発揮していた。
少年は、優秀だった。故に孤立していた。
才能があり、知識もある。その知識が邪魔をした。
彼を創造した環境と体験の蓄積がそうさせた。
マイノリティだと責められた。人間性そのものを否定もされた。
大衆と同じ意見でないと動くことのできない社会は、彼自身を拘束したことだろう。
社会不適合者だと感じただろう。
ただ、それで良かった。少年は抗った。
自分の意見を通さないことはなかった。
馴染もうと努力もするが、自分に必要のないことだと気付けばすぐにやめた。
良く言えば自分に正直で、素直だ。
大衆から見れば自分勝手な奴かもしれない。
側から見られる自分のことを、少年は分析できる頭がある。
その分失敗も沢山してきた。間違えたと思うこともあった。
それでも彼は自分自身を曲げることはない。
自分を創るのは自分だ。
周りがどうであれ関係ない。
少年はそう思っていた。
創造
少年を認めてくれる者も居た。
世に出れば色んな人がいる。視野は広がる。
彼に魅せられた者も沢山居た。
少年は魅せ続けた。形を変えど、自分を創り続けた。
世に声を届け、魅了するものを描き、魂を込めた。
様々な見られ方をしてきた。
ある人はカッコいいと言い、ある人は怖いと感じ、ある人は最高だと褒め称え、ある人は気持ち悪いと顔を歪めた。
これは " 少年 " そのものだ。
いくつもの顔を持ち、使い回してきた。
もう何個目の顔なのかも分からなくなっていた。
顔の数だけ、少年は沢山のことをしてきた。
それら全てが少年であり、どの顔も偽りではなかった。
しかし、好きだと寄ってきていた者が、その顔たちを見て離れていく。
どれが本物?と真実を知りたがる。
その質問は、彼にとっては愚問だった。
どれが、ではない。どれも全部、少年には変わりないからだ。
遭遇
少年は、1人の少女に出会う。
彼女も少年と同じだった。沢山の顔を持ち、マイノリティだと責められ、孤立していた。
少年と違うのは、社会不適合者である自分を自分で責めていた部分だけだった。
互いに話をする前から察知できる何かがあった。
少年はその能力にも秀でていた。
出会って間もなく仲良くなった。他愛もない話をした。
お互いに何かがあれば、その時だけ連絡を取り合った。
男女としてではなく、人間同士として一緒に居た。
少年は少女に、過去の話をした。
沢山の顔を持ちすぎて今がどの顔か分からないと伝えた。
少女は少年に、当たり前かのように答えた。
「それが君でしょ。どれが君か分からないのが、全部君でしょ。」
輪廻
そう言われた少年に、前世が降りてきた。
少女は戸惑ったが、全てを聞き入れ、目撃し、記憶した。
『僕たちはまた間違った。』
前世曰く、少年と少女は何度も出逢っている。
そして、何度も道を間違えている。
きっと何処かで正しき道で出逢えるよう、魂は輪廻を繰り返している。
ソウルメイト、ツインレイ。
そう呼ばれる類のレベルだ。
信じない者の方が多いだろう。
しかし、少女はそれを信じ、少年のことも信じている。
全てを吐き出した少年に、先程の記憶は無かった。
少女だけがそれを五感で体感した。
消失
少年は消えた。
きっと今もどこかで世に何かを落としているだろう。
これは少女の勘であり、事実だ。
少女はいつ気付くだろうか。
少女にそれが届くのはいつになるのだろうか。
そうして少女も消えていく。
少年は気付くだろうか。届くのだろうか。
世界は回る。廻り続ける。
少年と少女が『間違えなかった』と言えるまで。
" また逢う日を楽しみに "