53歳のリベンジ②(父親の介護)
英検1級をいつかは受けたい、いつかは合格したい、と思っていても、人間はあっという間に年老いてしまい、夢を叶えることは難しくなってしまいます。
人間の骨髄が老化等の理由で機能低下し、正常な丸く平べったい赤血球を生成する能力を失ってしまうと、体内にあまねく酸素を供給することができなくなり、人間は一日のうち23時間以上を寝て過ごすようになります。
「応接間」と家族がよんでいた居間のど真ん中に介護ベッドがおかれ、簡易式のトイレがその横に置かれています。雨戸をあけない築50年の木造家屋の暗い部屋で父は無言で寝ています。
父が倒れて以来、介護ベッドのうえでやつれ果て、船員として世界中を航海していた頃の若い快活なイメージとはかけ離れていく姿を見るにつけ、何かを頑張ろうというバイタリティ(気力と体力と挑戦心)があるうちは、後悔したり思い残すことにないように、できる努力はしなければならない、と強く思うようになりました。
コロナの真っ盛りの頃、2019年の夏~2020年の春頃は「お父さんが起きて来ない。寝る時間が増えて心配だ」という母の話でしたが、徐々に体力が弱っており、父が肺炎を起こし、いよいよ完全介護状態となったのは今からちょうど2年前の9月でした。コロナの第3波が収まりつつある頃。当時、父は89歳、母は80歳でした。
最初は無理をして、父を自力でトイレに行かせることもありましたが、一回のお手洗いに2時間以上かかるうえ、一度床に座り込むとそのままベッドに戻ることは不可能です。昼間なり、深夜なり、付き添う母の体力が徐々に限界に近づいて来ていました。
紙おむつをつけたら付けたで、またそれを取り替えるのが大変です。看護師さんやケアマネージャーさん、ヘルパーさんがおられる間は紙おむつを取り替えてもらうこともできますが、不在の間は母が自分で取り替えることになります。定期的に着替えをさせたり、食事を与えることも大変な重労働です。
母を一人にすることはできませんし、介護保険の要介護との認定申請、保険会社への連絡、ヘルパーさんや在宅入力サービスの契約など書類仕事、ケアマネージャーさんとのカンフェレンスなど介護に伴う雑事も多いので、在宅勤務制度を利用して、週のうち2~3日は私も実家で過ごすこととなりました。
自宅は東京都内の城北地区(北区)ですので、実家までは片道約2時間の道程です。週に最低一度は実家に顔を出すうちに、移動時間を有効活用したいと思うようになりました。
そこで、渡りに船と英検1級の準備を始めることとしました。
(続く)