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俳句チャンネル ~文体と表記(その2)~

【はじめに】
今日の記事では、2020年11月12日に「夏井いつき俳句チャンネル」にアップされた動画『【文体と表記②】新かな・旧かな、どちらを選ぶ?』を軸にお話ししていきます。

「シリーズ文体と表記」は、前回(その1)は文体(口語と文語)について説明しましたが、今回(その2)では、「仮名遣い(新かなと旧かな)」を説明していきます。(前回の私の記事はこちら ↓)

次回(その3)に備え、今回の「新かな・旧かな」と前回の「口語・文語」をしっかりと抑えて頂きたいと思います。

1.仮名遣いを大きく2種類

言語学的に分類し始めると、それで動画が終わってしまうこともあってww今回は動画に則り「新かな」「旧かな」の二分法で行きます。

「現代仮名遣い」 ・・・ 通称:新かな
「歴史的仮名遣い」 ・・ 通称:旧かな

詳細に興味のある方は、ウィキペディアを貼っておきますので、ここらへんから沼にドンドンとハマっていってください(?)

2.仮名遣いについて注意すべき点

例句紹介を後回しにして、先に「仮名遣い」の総論についてお話しします。

前回お話しした「文体」(文語と口語は1句の中で混ざり得る)と違って、この仮名遣いは基本的に1句の中に混ぜてはいけない(混ぜるな危険)のだそうです。
『意図をもってです!』と見栄を張っても、『知識不足で間違えちゃった』んだなと思われるので、これは流石に基本的には損しかないとのことです。

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また、同じ作者が句の内容から、新かなと旧かなを作り分ける両刀使いも、これは容認されつつあるとのことですが、
例えば、「句集」を発表するとか、「数十句で一作品と見做して審査する」コンテストに応募する際は、『読む側も、一々、仮名遣いの脳のスイッチを切り替えなければならな』くなるし、『複数句の統一感』といった観点からも、どちらかに統一した方が良いのではないか、と語っています。

(少なくとも、小説は当然として、短編を纏めたオムニバスな詩集などでも発表時期が同じ(過去の作品を纏めたものとかではない)なら、大概は仮名遣いが統一されているように思います)

3.良くある質問:新かな・旧かな どっちにしたら?

良くある質問として「どちらを選んだら良いですか!?」と迫ってくる人が必ずいる。それに対して、夏井組長は回答を決めていて、

・(何も勉強せずとも)普段から使えているんだし、迷うぐらいだったら、「新かな」にした方が無難
・ただ、
どうせ俳句をやり出した訳だし、勉強しなければマスターできない「旧かな」を勉強した方が“得”だと考える人には「旧かな」をオススメする

ぐらいなんだそうです。これも作る人や周囲の環境によっても分かれるのですが、双方を選ぶメリットが提示されていて選びやすくなると思います。

まあ欲を言えば、どちらを普段使いするにしろ、いざという場面(?)で、知識不足によるミスをしないためにも、「旧かな」の正しい文法で詠めるだけの知識を持った上で仮名遣いを選べれば理想かと思います。
(旧かな は書けないから、仕方なく新かなという消極的な姿勢の是非如何)

4.名句紹介

今回、動画内では名句1句が厳選・紹介されていました。こちらです。

妻がゐて夜長と言へりさう思ふ/森澄雄

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内容的には、夫婦が「秋の夜長」をしみじみと言葉少なく共感し合っているというものです。
文法的に、「旧かな」なポイントが4つありますが、どこか分かりますか?

妻が【①ゐて夜長と言【②へり【③さう思【④ふ

国語の授業的にそう質問されれば、4箇所指摘できると思います。だって、普段の新かな と違う部分を挙げれば良いのですから、多少間違うことがあっても、大体は行けそうです。

ではここで思考実験として「新かな」に直した比較句と並べて鑑賞します。

(旧かな)妻がゐて夜長と言へりさう思ふ/森澄雄
        ↓     
  ↓   ↓    ↓
(新かな)妻がいて夜長と言えりそう思う(比較句)

この句が読まれたのは昭和の終わり(1986年)だそうなので、新かなで詠むことも当然選択肢となりうる時代ですが、作者は旧かなを選んでいます。

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旧かなを選んだことによる効果を動画内では、次の様に考察していました。

・俳句の微妙なニュアンスを表現できる
 作者夫妻の「年齢感」や「人生の局面」の雰囲気を感じさせる

・表記を変えただけなのに(旧かなの方が)奥行きがあるような
 感じがする(空気感が醸し出される)


・「旧かな」の違和感を読者に与えることで、旧かなの部分で
 止まり、時間を掛けて理解させる工夫が効果的に働いている

 (夜長のゆったりとした時間の流れを共有したり、
  俳句を鑑賞する時間を長く取ることの出来る効果)

現代においては、「旧かな」を選ぶのには一定の効果を期待して使い分けるケースが増えてきています。(その代表例が「プレバト!!」になっていまして、その効果の期待については、この後の項でご紹介していきます)

弱点としては、音で読んだ時にはその工夫が全く表現できない点を挙げていて、夏井組長が20年やっているラジオ番組でも「旧かな」であることを説明しなければ、仮名遣いは全くお伝えできない点を仰っていました。

5.「プレバト!!」作者別に見る仮名遣い

今回調べてて、作者による「仮名遣い」の傾向がくっきりと出てきました。今まで意識して調べたことが無かったのですが、俳句への挑み方なども垣間見えるようで面白かった~

(1)プレバト!! 俳句四天王は「2対2」

「プレバト!!」俳句四天王とも呼ばれる名人10段以上4名についてですが、実は、フジモンとフルポン村上の両名は殆ど「旧かな」の句は無い様です。

・子供にも分かりやすい「フジモン」ワールド  と、
・現代に溢れる半径数十センチの詩人「フルポン村上」さん

作風からして「旧かな」が入り込む余地は確かに少ないのですが、「皆無」だという点は少し意外でした。

対して東国原英夫名人は、全面に打ち出している訳ではないですが、1~2文字程度「旧かな」がサラッと入っている句が多い印象です。例えば、

《 東国原英夫・旧かなの俳句 》
・椅子しかあの日のごとく窓に花
・星月夜赤ちゃんポスト動き
・湯冷めして九条議論終りけり
・梅雨寒しコンビニは麻酔の匂

・墓参り後ろに誰かうな
・ポイントでもらし蛍ないきる

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などです。下2句は比較的印象が強いですが、上4句については、サラッと読んでいる際には気づかない程度の分量「旧かな」が含まれてる感じです。

そして、「梅沢富美男」永世名人は、(文法的な手落ちが無いという前提に立つとすると)「新・旧かな」を内容によって使い分けている印象です。

《 梅沢富美男・旧かなの俳句 》
・夜学果てまだ読みふけるおとが
・初旅やほのかに匂ポリ茶瓶

《 梅沢富美男・(意図的な)新かなの俳句 》
・旱星ラジオは余震しらせ

1句目の「おとがひ」と、3句目の「おり」については、「新・旧かな」と言うより「文体(文語・口語)」で区別しているのかも知れません。

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あの「おとがひ」の句は、意識して表記を工夫したと絶賛されていました。まあ「おとがひ」という日本語はほぼ現代日常では用いられず、「古語」的ですので、新かなにしなかっただけかも知れませんが、全体的なバランスとしてやはり「旧かな」を選んだと言えるでしょう。

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「ポリ茶瓶」の句は、もっと意図が明確で、『ノスタルジー』を感じさせる意味でも「思ふ」と意識的に旧かなにしたものと思います。

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対して、タイトル戦初優勝を飾った「旱星」の句は、「おり」が(敢えて)良く見かける「をり」ではなく「新かな」を採用していました。
おっちゃん(永世名人)ほど勉強熱心な方が「をり」と表記することを知らないことはまず考えられないですし、上記の様に「旧かな」を使う俳人が、「敢えて『おり』と新かなを使ってきた」と考える方が自然でしょう。

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ここからは筆者(Rx)の推察ですが、多分、福島県出身で「東日本大震災」等を詠んだ句も多い永世名人ですから、『現代』の句として読みたかった、恐らく、「旧かな」にすると『昔のこと』の様になってしまうと危惧したのではないでしょうか。(『ポリ茶瓶』の「旧かな」とは逆の発想でです。)

前段の話からすると、梅沢名人の句集が出来たとき、「新かな・旧かな」が混在することにはなりますが、それぞれの句で意図をもって使い分けされているので、これはこれでアリなんじゃないかと思います。

少なくとも梅沢名人は、「新・旧」両方の仮名遣いの句を披露していますので、今後発表される句でも「仮名遣い」に注目すると、さらに作者の意図が読み取れるのではないでしょうか?

(2)「旧かな」遣いな特待生(候補)の皆さん

名人・特待生の中でも「旧かな遣い」がメインの方は数えるぐらいしか居ません。一般的な俳句界とは違うからでしょうが、イメージとしては8~9割が「新かな」の句だと思います。

そうした中、「旧かな」をメインにしていらっしゃる特待生(候補)の皆さんの存在は、「プレバト!!」においては少数派で貴重です。

今回3名を挙げさせてもらいますが、いずれも「旧かな」をメインとしていて、何度も才能アリを獲得している「実力者」な印象の方々です。

《 森口瑤子 》
・道草は砂町銀座おでん食
・謎解きの頁に蜘蛛は果てて
・ちさんの被爆ピアノや秋はきぬ
・秋てふや夢の途中に時計鳴る

厳密に言えば、「ちゑ」さんの「ゑ」は、旧かなを意識したのとは少し違うのでしょうけれど、1・2・4句目に関しては「新かな」でも書けるのに、意識的に旧かなを使ったものと思われます。

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特に初の決勝で披露した「秋てふ(蝶)」の句は、「おでん食ふ」のような過去の出来事を描いたのでもない現代日常の句でありながら敢えて「てふ」という旧かな(しかも平仮名)を使ってきた所にポリシーを感じました。

《 筒井真理子 》
・向日葵の波に逆ら兄逝きぬ
・き慣れしのあたらし秋の婚

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続いても女性特待生の「筒井真理子」さん。初登場で83点を獲得した句は、戦時中の出来事を描いた句なので、旧かなを選ぶのも自然なのでしょうが、2句目は比較的現代な光景を描いているにも拘らず、「きゝ」や「聲」など意図しなければ使わない表現を使ってきています。

両女性特待生とも、安定感があり趣深い句が多い印象だったのですが、どうやら「旧かな」が持つパワーというのも味方につけているからこそなのだなと感じた次第です。

そして、特待生候補からもお1人ご紹介したく思います。それが「武井壮」さんです。(起稿時点では)特待生最有力候補とされています。

《 武井壮 》
・子らの引く綱の雄々しく匂ひけり
・後毛の柔く撓ひて梅雨に入る
・戦陣の交はるごとき梅二色

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75点を記録した1句目もそうですが、決して昔のことを描いている訳ではなくても、旧かなにすることで全て高尚な出来事に感じさせる力があります。

武井壮さんは、NHKで俳句番組を長らく務めていますが、比較的「旧かな」遣いに拘る講師陣のもとで学んできたこともあってか、「旧かな」で俳句を詠むという姿勢を忠実に守っている印象ですかね。

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【おわりに】

ここまで「プレバト!!」の句も含めて、『新旧仮名遣い』を見て来ました。恐らく、次回(その3)では、「文体」と「表記」が混ざってきますので、(夏井組長も動画内で仰っていましたが、)混同せず付いていくためにも、この記事と元動画を複数回繰り返して見聞きして下さると嬉しいです!

それでは、次の記事でお会いしましょう、Rxでした、ではまたっ!

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