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「おまえの親になったるで」:大事な妹を失った男が差し伸べる手。いろんな道徳観・正義感が揺さぶられる作品。

<あらすじ>
受刑者の半分が出所しても仕事や居場所が見つからず再び犯罪に走る問題と向き合い、2013年、関西の中小企業7社が集まり、元受刑者に住まいや仕事を提供し再犯を防ぐ日本財団職親プロジェクトが発足する。参加者の一人である大阪の建設会社社長・草刈健太郎は大切な妹を殺された過去があり、当初は活動に気が進まなかった。しかし少年院を出たある青年との出会いをきっかけに、のめり込むように全国各地の刑務所・少年院を訪問し、多くの元受刑者らの更生支援をしてきた。裏切られることは日常茶飯事であり、加害者と被害者の間で揺れることもあった。葛藤の末に、加害者をなくせば妹のような悲劇をうまないという信念を持つようになっていく。犯罪被害者遺族でありながら更生を支え続ける草刈健太郎に10年密着し、社会の問題に迫る。

KINENOTEより

評価:★★☆
(五段階評価:★が星1つ、☆が星半分、★★★★★が最高、☆が最低)

妹をその婚約者に惨殺された過去を持ったある一人の男性が、刑務所・少年院に収監されている受刑者の出所後の身元引受をしていく職親プロジェクトに参加していく様に迫ったドキュメンタリー。日本における刑務所・少年院の受刑者が出所後、再び犯罪に手を染めて、再収監されるといういわゆる再犯率は約47.9%(2020年度時点)と世界的に見ても高く(といっても、ヨーロッパはやや低めだが、世界的に見ても30~60%の範囲)、2人に1人は再び刑務所に戻ってくるという現状。これはちょっと考えてみても不思議なことではなく、物価高で格差・貧困社会が足元で広がっている日本社会において、犯罪を犯していない人でさえ、満足な収入を得れる職につくのは難しくなっている。かたや、物流や介護など産業によっては慢性的な人手不足に陥っている現実もあって、なかなか人材における需要と供給のミスマッチが続いているのも事実。。この辺り(この感想文を書いているときに国政選挙が近いこともあり)、本当に何とかしないと日本は経済的にもどんどん疲弊していくんではないかと思ってしまいます。

という脇の話は置いておいて(笑)、映画としては、ある犯罪の被害者家族になった男・草刈健太郎が、犯罪を犯した加害者(もちろん当事者となった事件ではなく、他の事件にて)の出所後の身元を引き受けるプロジェクトに身を投じていく様を描いたドキュメンタリー。作品中にも説明がありますが、草刈さんもこのプロジェクトだけをやっているわけではなく、建設会社の社長として社会に貢献している仕事をしていく中で、自らの会社の中でこうした元・受刑者たちの社会復帰・社会参加を促していく活動をしているということになります。

ネタバレは避けますが、映画としては2人の元受刑者の受け入れる様を中心に追っていて、その合間合間で草刈さん自身が犯罪被害者となった妹の事件の内容・現在進行形で進んでいる犯人である婚約者との向き合い方を挟み込んできます。ちょうど僕も今年(2024年)にある犯罪事件の被害者(そんな身に危害が及ぶものではなかったので安心してください笑)になったこともあり、被害者として加害者と向き合う難しさを作品を観ていて痛感しました。もちろん犯人に対して恨みというか、故意に酷いことをされた”苦々しい”想いは当然持つので、それを法として裁いて欲しいとは思ったものの、じゃあ犯人側の動機であったり、もっと上の視点でどうなれば社会として、こうした犯罪を未然に防ぐにはどうすればよいのかというところまでは考えに至らなかったです。きっと、その考えもあって元・受刑者を受け入れるという活動に参加されていることは単純に凄いと思うし、作品中にもところどころ描かれる、相反する”苦々しさ”に対峙して苦しまれるところも痛いほど分かったりします。社会が変わり、皆の意識が犯罪に手を染めない・染まらないような理想郷を目指したいとは思うものの、人って心の琴線に触れる距離まで近づかないと変わらないのだなとも思う、いろいろ難しい感情を処理するのが大変な作品だったりしました。

<鑑賞劇場>アップリンク京都にて


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