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「ルックバック」:漫画を通じた交錯した二人の少女の成長劇。終盤のタイムリープっぽい演出が漫画らしい構成とよく合っている。

<あらすじ>
小学4年生の藤野(声:河合優実)は、学生新聞で4コマ漫画を連載している。クラスメートからは絶賛を受けていたが、先生から不登校の同級生・京本(吉田美月喜)の4コマを載せたいと告げられる。二人の少女は漫画へのひたむきな思いによってつながるが、ある日、すべてを打ち砕く出来事が起こる……。

KINENOTEより

評価:★★★★
(五段階評価:★が星1つ、☆が星半分、★★★★★が最高、☆が最低)

「チェンソーマン」などの作品で知られる藤本タツキの同名コミックを、「鋼の錬金術師 嘆きの丘の聖なる星」(2011年)などのアニメーション監督を務めた押山清高の初監督作品になります。映画自体は1時間に満たない中編的な作品(原作もジャンプ+に掲載された読み切りもの)になっていますが、とても見応えのある作品でした。ジャンプの同じ漫画家の内輪ものとなると、実写映画化もされた「バクマン。」(2015年)が有名ですが、あちらが多くの漫画家が登場して連載を勝ち取っていくというスポコンにも似たジャンプ漫画らしいのに対し、こちらは同じ漫画を描くという中で青春という一時期を通じて成長していく二人の少女(女性)の物語にフォーカスが当たっているという、ジャンプ漫画には良くも悪くも少し似つかわしくない作品になっていると感じました。

アニメの絵づくりは、僕ら世代にとってはちょっと懐かしい昭和アニメ感を感じる作りになっています。原作者の藤本タツキ氏は「チェンソーマン」がすごく代表的ですが、原作コミックのほうは正直絵が上手いという部類の作家さんではありません。でも、彼の作品に感じるのは「呪術廻戦」と同じようなアクションとしての力強さ。その彼の良さが、本作のようなヒューマンドラマにどのように合うかと思ったら、二人の少女が女性に変貌していく様を四コマ漫画のコマ送りよろしく、流れるように描いていくこと。悪く言えばちょっと焦点が合いづらいとも感じますが、こうした動き重視の物語構成が漫画ならではのマジックを起こす終盤に上手く活きてくるのです。前にどこかの感想文にも書いたのですが、青春時代って、(あのときは思わなかった)一瞬一瞬の決断だったり、人の出会いや出来事がその後の人生を大きく変えていくことが多くあったりします。なので、このときこうすれば別の人生シナリオが生まれていたのではないか。。人生を大きく飛躍させると同時に、後悔の念もある人が多いんじゃないかと思います。

この漫画らしい青春時代の巻き戻りが、少し悲しげな未来を明るく照らしていく源泉になっています。ネタバレは避けますが、多くの人がもっているであろう、あの頃の楽しさだったり、深く傷ついた心の傷も含め、優しく包んで、これからを生きていく糧に変換してくれる不思議な作品です。アニメ映画だからとか、上映時間が短いからということで難癖つけずに素直にみて、感動して欲しい作品になっています。

<鑑賞劇場>Tジョイ京都にて


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