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「湖の女たち」:支配し支配される依存関係に潜む欲望。描く内容はひどく古典的だけど、なぜかスンとこない。。

<あらすじ>
湖畔の介護施設で百歳の老人が殺された。西湖署の若手刑事・濱中圭介(福士蒼汰)とベテランの伊佐美佑(浅野忠信)は捜査を開始。施設の中から容疑者を挙げ、執拗な取り調べを行なうが、その陰で圭介は取り調べで出会った介護士・豊田佳代(松本まりか)に歪んだ支配欲を抱いてゆく。一方、事件を追っていた週刊誌記者・池田由季(福地桃子)は、西湖署が隠蔽してきたある薬害事件と今回の事件の関係を突き止める。やがて、恐るべき真実が浮かび上がる。後戻りできない欲望に目覚めてしまった圭介と佳代は……。

KINENOTEより

評価:★☆
(五段階評価:★が星1つ、☆が星半分、★★★★★が最高、☆が最低)

「悪人」(2011年)や「怒り」(2016年)など映画化作品が多い、吉田修一による同名小説を「日日是好日」(2018年)の大森立嗣監督・脚本で映画化した作品。ある介護老人施設で起こった殺人事件で容疑者として浮かび上がった女性と事件を捜査する刑事の間に成立した主従関係と、同時並行で事件の真相に迫るサスペンスが並行して描かれていく。吉田修一さんの作品は結構人間のいやらしい本質性を突いた作品が多いのだが、今回はこの2人の間の支配関係が物語の主軸になっていきます。

本作を観ていて、私たちの人間関係の中で気づかないうちに支配関係まではいかないまでも、上下関係があると誤認識することがたまにあったりします。分かりやすいのは職場における上司と部下だったり、学校の中の先生と生徒の関係、あとは年齢による先輩後輩関係だったり、今は薄いと思うけど親子や男女の関係だったり、お金にまつわるお店とお客の関係だったり、フラットと思っている恋愛だったり、友人だったりとの関係も何かのきっかけで上下の関係ができて、いじめやハラスメントの温床になったりもします。今ではXなどのSNSでも、こうした様々な関係で起こっている人間関係の差で起こってしまう誤解やハラスメントをみせかけの正義で一刀両断する投稿がったりもしますが、その関係がどういう関係なのかは当事者でないと分からないもの。もちろんDVなどの心身を傷つける行為は問答無用でいけないとは思うのですが、こうした歪んだ関係でも、そこに依存して欲望に昇華している人間関係も(はたから見れば理解できないとしても)あるのは事実だろうと思ったりもします。自分は周りの関係でどうなのか、逆に第三者から見て、その関係をどう思われているのかも意識させられてしまう。本作のちょっとエロティックな部分を見ていると、そうした根幹部分が揺さぶられたりもするのです。

お話として面白いのが、当事者となる二人の関係が一方は刑事(警察)という品行方正を求められる職業に対し、もう一方は介護職という介護・被介護者の関係で肉体的な接触もありうる、ちょっと仕事の中でも親密な距離感を求められる職業にしているというところ。客観的な仕事として見ても、前者のような警察だったり、法曹界だったり、軍隊だったりもそうだと思うのですが、世の中の公平さ・正義感を仕事の中で体現することを求められるのに対し、後者の医療福祉というところでは患者やご利用者に向けてよくも悪くも距離感を縮めることを求められる。どんな仕事でも苦労はあると思うのですが、この2つの職分野ではそれぞれに対象的な大変さがある(それによって潰される人もいなくはないので)のに対し、どんどん二人の関係が成熟していってしまうところが物語としての面白さはあると思います。ただ、映画はちょっと描写が過剰すぎて、サスペンス部分との折り合いも含めて、メッセージが伝わりにくいかなというのが私見でした。。

<鑑賞劇場>TOHOシネマズくずはモールにて


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