
「きみの色」:ひょんなことからバンドを組むことになった3人の青春劇。音楽をキーに、3人の絆が見える良作!
<あらすじ>
嬉しい色や楽しい色、穏やかな色など、人の感情が色で見える高校生のトツ子(声:鈴川紗由)は、同じ学校に通っていた美しい色を放つ少女・きみ(声:高石あかり)、そして街の片隅の古書店で出会った音楽好きの少年・ルイ(声:木戸大聖)とバンドを組む。きみは家族に学校に行かなくなったことを打ち明けられておらず、母親から医者になることを期待されているルイは母に隠れて音楽活動をしており、トツ子を含めそれぞれ誰にも言えない悩みを抱えていた。離島の古教会で練習を重ね音楽で心を通わせていくうちに、3人の間に友情や淡い恋のような感情が芽生えていき……。
評価:★★★★
(五段階評価:★が星1つ、☆が星半分、★★★★★が最高、☆が最低)
「けいおん」(2011年)や「聲の形」(2016年)など音や声、それから紡がれる音楽にフォーカスにした作品が多い山田尚子監督のオリジナル長編アニメーション。作品中には明確な表現はなかったかと思うのですが、主に長崎・佐世保を舞台とした異国情緒と、島文化が根付く土地を取り上げているので、主人公・トツ子やきみが通っている女学院がちょっと修道院っぽい造りになっていたり、きみがバイトしている古書・古レコード屋が坂の裏手にひっそりとたたずんでいたり、ルイが住んでいるところが町から離れた離島だったりと、島国日本とは言うものの、特に海文化には疎いところで長年育った僕のような身からすると、こういうところで青春時代を過ごせるのは素敵だなと素直に思います。また、こうした異国文化あふれるような街に、アニメの淡い色合いもうまく合っている。お話に入る以前に、こうした絵を中心としたまとまりあるアニメーションって、僕にとっては観たいなと思わせる気持ちを湧きあがらせるような作品だなと思います。
とお話のほうにも触れていくと、主人公・トツ子は寄宿舎も備えている(きみのような通学生もいるようですが)結構厳粛なクリスチャンの女学院。厳しそうな校則があるような感じもするのですが、通っている生徒の表情やキクのクラスメイトなどを見ても結構自由な校風もあるのかなと思います。そんな中、トツ子が偶然出会ったきみの存在がどこか気になってはいたが、彼女はいろんな理由から退学を考えていて、学校にも登校しなくなっていた。そんな中、バイト場に通うきみを街中で見つけた彼女は、きみが勤めている古書店で、これもきみの存在を気にしていたルイと3人は出会い、ひょんなことからバンドを組むことになっていく。。
この他人が気になるという想いが、恋なのか、友情なのかは明確に描かれていないのですが、それでも他人に興味を覚えて関わろうという想いは純粋だなと思います(行き過ぎるとストーカーになりますけどね笑)。それが3人が3人ともがちょっと内向的で、自分自身についてのことについても、親や自分に関わってくれる人に素直に胸に抱える想いを伝えられない。その中でちょっと不思議な世界観を持っているトツ子がきみも、ルイも巻き込むことで、見知らぬ他人同士だった3人が、バンドという1つの音楽を生み出す仲間になることで、お互いの素直な想いがゆっくりと溶け合っていくのが何だか素敵だなと思います。ちょっと少女漫画チックな感じが強いので、万人ウケはしにくいのかなとも思いますが、トツ子の他人が色で見えるという不思議な特性(?)が音楽とともに、まるでパレット上で色と色が交じり合い、新しい(しかも素敵な)別の色に染め上がっていく様が、アニメーション(絵)として動いてくのがなんとも素敵だと思います。「けいおん」(2011年)も、「聲の形」(2016年)でも、こうした音にまつわる部分を巧みに絵に落としてきた山田監督の1つの集大成的な部分も垣間見えるので、彼女のファンはもちろんのこと、音楽でも、予告編から感じられるちょっと異国情緒な街で行わる青春劇としても、とても格別な出来になっている作品だと思います。
<鑑賞劇場>TOHOシネマズくずはモールにて