「朽ちないサクラ」:普段は焦点が当たらない警察と公安を巡るサスペンス。安田顕の上手さが作品を支える。
評価:★★★
(五段階評価:★が星1つ、☆が星半分、★★★★★が最高、☆が最低)
柚月裕子による同名警察ミステリー小説を、同じ警察映画だが、有名シリーズの劇場作品「帰ってきた あぶない刑事」(2024年)で監督に抜擢された原廣利が手がけた作品。主演は「52ヘルツのクジラたち」(2024年)などの作品でももはや女優の地位を確立した感のある、僕のイチ推し女優である杉咲花。周りを支える俳優陣も、若手の萩原利久や森田想、ベテランの安田顕や豊原功補など味のあるキャストたちでしっかりとした演技で満足感の高い作品になっています。
ちとネタバレになるかもですが、本作は警察映画でありながら、物語の後半では公安という一般の人にはなじみのない組織が登場してきます。公安というのは公安警察の略称であり、警察の中の一組織ではありますが、普通の警察官・刑事というのは一般社会での事故・事件を解決するために尽力する人たちに対し、公安はどちらかというと日本という国家にとって脅威になる暴力集団(最近だとテロ組織など)による破壊活動であったり、国益損益を解決するとともに、未然に防ぐための活動をしており、新聞やテレビなどのよくある一般報道には(全く載ってこないことはないですが)あまり取り上げられることの少ない存在だったりします。その大きな理由は国家活動に関することなので、あまり表立ってはまずいということもありますが、国益のために時には国民の利益より、国益を優先させてしまうこともある実情もあるのかなと思います。よくハリウッド映画や海外ドラマではFBIやCIAなどの組織活動もエンタメ素材に取り上げられますが、日本でも(一部ドラマはあるものの)公に前に出ないことが多いかなと思ったりもします。
本作ではそうした警察の中での、一般市民のために事件解決に邁進していく表側の刑事たちと、ある事件を自分たちの都合で隠蔽したい者たちとの駆け引きが行われ、そこに公安という組織が大きく関与してきます。それ自体のドラマは見ごたえがあるし、キーとなる元・公安の富樫を安田顕が好演しています。彼と豊原功補演じる熱血刑事・梶山が物語の中で陰と陽をなしていて、そこに若手正義感溢れる主人公・森口であったり、若手刑事の磯川が表で翻弄されたりしていくのです。こういうお話の部分は本当に面白いのですが、逆に残念なのは作品がすごく地味なところ。何が必要って言われると難しいのですが、もうちょっと映画映えするようなキーシーンみたいのが作品中に欲しいかなと思うのです。低予算なのか、同じような背景場面で何かシーンが分かれて登場してしまうのも、どこか安っぽさを感じてしまいます。ただ、重厚ではあるので、お金を払って観る分の満足感は十二分に得られると思います。
<鑑賞劇場>TOHOシネマズくずはモールにて