
「愛に乱暴」:身に迫る現実に目を背け続ける完ぺき女。愛はいつまでも続くというのは幻想なのかも。。
<あらすじ>
夫・初瀬真守(小泉孝太郎)の実家の敷地内に建つ“はなれ”で暮らす妻・桃子(江口のりこ)。義母・照子(風吹ジュン)から受ける微量のストレスや夫の無関心を振り払うように、桃子はセンスのある装いをし、手の込んだ料理を作るなどいわゆる“丁寧な暮らし”に勤しみながら毎日を充実させていた。そんななか、桃子の周囲で不穏な出来事が起こり始める。近隣のゴミ捨て場で相次ぐ不審火、愛猫の失踪、度々表示される不気味な不倫アカウント……。やがて、桃子の平穏な日常は少しずつ乱れ始めてゆく……。
評価:★★★☆
(五段階評価:★が星1つ、☆が星半分、★★★★★が最高、☆が最低)
映画化もされている「悪人」(2011年)、「怒り」(2016年)の吉田修一による同名小説を、「さんかく窓の外側は夜」(2021年)の森ガキ侑大監督が映画化した作品。吉田修一さんの小説は「怒り」など何作か読んだ覚えはあるのですが、本作は未読。それでも吉田作品らしい、人間の心の奥底に潜んでいる感情がむき出しになるようなドラマが本作でも展開されていきます。主演は、「お母さんが一緒」(2024年)など近年では本作も含め主演俳優として磨きがかかっている江口のり子、振り回しているような振り回される旦那役も(僕としては)脇役イメージが多かった小泉孝太郎が怪演を魅せています。
本作のテーマになっているのは、きっとおそらく誰もがやってしまいがちな見て見ぬフリというもの。作品中でも描かれますが、それこそ街中に落ちているゴミを見て見ぬフリで通りすぎるのと同様な形で、もう夫婦生活は崩壊しているのに見て見ぬフリで、家事やパートに没頭したり、お気に入りの家具や陶器を集めることでやり過ごそうとしている主人公・桃子。夫の真守も桃子にいつ別れを切り出そうかとタイミングを計っているが、桃子とのなれそめを考えるとなかなか切り出せない。桃子は桃子で窮屈であるはずの姑・照子の目が光る実家の離れの生活でも、幸せ(であるはずと思いこんでいる)な夫婦生活を守るために、よりよき母娘関係を甘んじて受け入れてもいる。そんな中、近所で発生するごみ捨て場での不審火事件から、徐々に見せかけの生活がボロボロと崩壊していく、、、
こうした見て見ぬフリは、人として健全な(であるべきというべきか)社会生活を営む上では、ある程度なたしなみみたいなものかもしれません。でも、本当は嫌なことなのに、そんなフリのため健全であるべき自分を(きっと誰も見ていない中で)演じるというのは窮屈なもの。それに自分がこうありたいという姿に、所詮は他人関係から始まっているパートナーがすべて従ってくれるとも限らない。自分が制御できないところがあると分かったうえで、家族関係でも、仕事関係でも、ある程度自分の中で納得させながら生きていくことが、もっともストレスない生き方かもしれません。でも、そんな自分勝手な生き方をしては誰もよりついてこないことも、また事実。フリと本音の間で生きていかないといけないのが、生きづらい現代社会というものなのかもしれません。。
<鑑賞劇場>CINEXにて