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「ハロルド・フライのまさかの旅立ち」:忘れられぬ想いのために動き出す老人。想いというのは結構自己完結しているもの。

<あらすじ>
ハロルド・フライ(ジム・ブロードベント)は定年退職し、妻モーリーン(ペネロープ・ウィルトン)と平凡な生活を送っていた。ある日、思いもよらぬ手紙が北の果てから届く。送り主は、かつてビール工場で一緒に働いていた同僚クイーニーだった。彼女はホスピスに入院中で、もうすぐ命が尽きるという。ハロルドは返事を出そうと家を出るが、ある言葉をきっかけに考えを変える。クイーニーにどうしても伝えたい想いがあったハロルドは、ホスピスに電話をかけると、「私が歩く限りは、生き続けてくれ」と伝言し、手ぶらのまま歩き始める。歩き続けることにクイーニーの命を救う願いをかけ、800キロの道のりを行くハロルドの無謀な挑戦はやがて大きな話題となり、イギリス中に応援されるようになるが……。

KINENOTEより

評価:★★★
(五段階評価:★が星1つ、☆が星半分、★★★★★が最高、☆が最低)

イギリスの作家レイチェル・ジョイスの小説「ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅」を、ベテラン俳優ジム・ブロードベント主演で描いた作品。予告編にも感じるように、いかにも味わいサッパリなイギリスのヒューマン作品という体裁をとっているのですが、同じ巡礼旅が人気な日本にも結構通じるものがあるんじゃないかなと思います。”まさかの”という邦題のように、郵便を出していこうと思っていたところが、いきなり巡礼の旅が始まってしまうというのは結構トンでもな設定ではあったりしますけどね(笑)。日本だったら、認知症老人の徘徊とも捉えられなくもなくなってしまうので、巡礼旅をしたい方はちゃんとした準備をしてから出かけましょう(笑)。

日本でも四国のお遍路が代表的なように巡礼旅というのは結構人気だったりします。僕も今は(一応お休みという体裁ですが笑)西国三十三か所の巡礼旅(ウォーキングではなく、鉄道旅ではありますが)をやっていたことがあって、端的に言っちゃうと御朱印をもらいたいスタンプラリー旅でもあるのですが、いざ各寺社を回ってみて、仏様の前に立つと荘厳とした気持ちになりますし、周りの自然の空気だったり、お寺の人の触れあいも含め、外にいながら、自分の内内に入っていくような旅の良さを巡礼旅で感じることができます。もちろん、歩くことは身体的にも各器官を活性化させるのもよいですし、脳科学的にも「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンが分泌され、気分が落ち着いたり、新しいアイディアが生まれたりなど健康に効果的なことは科学的にも証明されています。巡礼旅とは、神仏だったり、自然だったり、自分を取り囲む畏怖なものに接しながら、自分の過去・未来を含め、心の奥底に触れていく旅でもあったりするのです。だから、欧米でも、日本でも古くから伝わる巡礼旅は人気があり続けるのでしょう(映画でも「星の旅人たち」(2010年)など取り上げられたりします)。

本作のハロルド・フライもそうですが、自分を翻っても、年齢が経ってくると、後悔ではないけど、あの時こうしたらどうだったろうとか、あの時自分は何であんなことをしたのだろうとか、過去の想いに縛られる瞬間というのが増えてきます。もちろん、これは年を取っているという客観的にみえる経験の量から仕方がないことでもあったりするのですが、そうした数ある想いと向き合うために瞑想だったり、巡礼旅だったりで自分と向かい合ったりします。でも、本作のラストでも描かれていますが、自分が想っている以上に想われ人のほうは対して気にしていないことが多いのですが(笑)、長い人生の中で、そうした様々な想いを昇華するトレーニングをしていくことは大事だと思いますし、周りの人から大切にしている想いを素直に伝えられることに嬉しくない人はいないんじゃないかなと思います(それで人に迷惑がかかることはダメですよ笑)。ただ、本作はちょっとその部分が自己完結しすぎていて、同じ長い歩き旅をしていた「フォレスト・ガンプ」(1994年)のような次の人生を変えるということには動かないので、作品としてはちょっと物足りない感はあるかもです。

<鑑賞劇場>MOVIX京都にて


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