「π<パイ> デジタルリマスター」:世の中に潜む数字の陰謀を解く科学者。妄想と狂気はいつも隣り合わせ。
評価:★★★☆
(五段階評価:★が星1つ、☆が星半分、★★★★★が最高、☆が最低)
「レクイエム・フォー・ドリーム」(2000年)、「ブラック・スワン」(2010年)など狂気に取りつかれた人の顛末をドラマ化し続けるダーレン・アロノフスキー監督が、1998年に発表した長編デビュー作。アロノフスキーは上記2作以外でも、「レスラー」(2008年)、「ノア 約束の舟」(2014年)、そして近作の「ザ・ホエール」(2022年)など、ある妄想だったり、運命(これも行動しなければ妄想と同じ)だったり、夢だったり、人生に様々な足かせをつけられた人にフォーカスして、その人の足かせがバーストして、狂気に迫られていく様を様々な映像トリックだったり、音楽だったりと様々な効果で魅せていくことが上手い人でもあります。そんなアロノフスキーのデビュー作である本作は、その後に連なる彼のフィルモグラフィーを象徴するような良作になっていると思います。
僕は大学時代に某大学の理学部物理学科というところにいたんですが、理系にいながら数学は全くの苦手でした(笑)。一応卒業はできたのですが、物理学の世界でも、特に量子力学や、その発展系(?)となる素粒子物理学などの超ミクロな世界を扱う分野は本来だと”物質とは何か”という古典物理からある謎を解明していくのですが、(皆さまもどこかで聞いたことあるように)この世界では物質は粒子でもあり、波でもあるという量子性を持ち、各粒子の位置は確率の波でしか存在しえないといわれています。これは高校の教科書的にはそこまでなんですが、大学の専門課程ではこれを数学的に証明しながら学んでいきます。まぁ、大学の学部レベルではそれほどまではないものの(赤点だった僕が言うのもなんですが汗)、虚数とか行列式とかで表現されるものから物理構造を想像していくとかどういう頭をすれば発想できるのか、そもそも前提条件から演繹していくだけでも苦労しているのに、その結果をどう検討すればいいのか当時の僕には??でした。おまけに、これでも数学では応用数学といわれる分野で、純粋に(多分本作のような)数や順列、次元を扱う純粋数学を研究している人はどういう世界が見えているんだろうと不思議に思うものです。結果的に僕はそんな理論物理の高等さに負け、実験系の研究室に所属して卒論とかも書きましたが、数学は苦手だけどやっぱり使いこなせる人には憧れを今でも抱いてしまいます。
そんな苦労した大学時代に公開されていた本作。当然、当時も劇場で観ていましたが、本作のテーマ曲(予告編にも流れている曲)を聞くと当時の悩んでいた(恋仲とか、金銭とかの話ではなく、純粋に勉強にだけ悩む真面目な学生だったなと思ったりしますが笑)ことを思い起こさせます。鑑賞したミニシアターが黒基調な小さな劇場だったことも、本作の雰囲気に合っていてすごく思い出深いです。まだインディーズな作品だったこともあり、映像空間としての表現自由度は小さいですが、いわば今もアロノフスキーが囚われ続けている境域の一端を感じるだけに、見逃せない作品ではあります。
<鑑賞劇場>アップリンク京都にて
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