見出し画像

「マミー」:四半世紀前に起こった事件の解決が未だ見通せない闇。いろんな不都合が詰まった中、真犯人は本当に誰かのか??

<あらすじ>
1998年7月に起きた和歌山毒物カレー事件。夏祭りで提供されたカレーに猛毒のヒ素が混入。67 人がヒ素中毒を発症し、小学生を含む4人が死亡した。犯人と目されたのは、近くに住む林眞須美。凄惨な事件にメディア・スクラムは過熱を極めた。自宅に押し寄せるマスコミに向け、眞須美がホースで水を撒く映像はあまりにも鮮烈だった。彼女は容疑を否認したものの、2009 年に最高裁で死刑が確定。今も獄中から無実を訴え続けている。事件発生から四半世紀。本作では最高裁判決に異議を唱え「目撃証言」「科学鑑定」の反証を試み、眞須美の夫・林健治が自ら働いた保険金詐欺事件との関係を読み解いていく。そして、保険金詐欺の実態をあけすけに語り、確定死刑囚の息子として生きてきた林浩次(仮名)が、なぜ母の無実を信じるようになったのか、その胸のうちを明かす。林眞須美が犯人でないのなら、誰が彼女を殺すのか??

KINENOTEより

評価:★★★★
(五段階評価:★が星1つ、☆が星半分、★★★★★が最高、☆が最低)

1966年に起きた袴田事件における再審における第1審無罪判決の確定、1986年に福井で起きた女子中学生殺人事件の再審請開始など、近年、過去の殺人事件における再審にまつわるニュースが増えているように感じます。次に、その1つになるであろう事件が、この和歌山毒物カレー事件なのかなと思わせる内容が、本ドキュメンタリー作品となっています。事件が起きた1998年の発生時の印象がすごく強烈で、夏祭りという不特定多数を狙って、ヒ素入りのカレーがふるまわれたという一種のテロ的な行為もそうですし、事件の容疑者として浮上した林眞須美におけるメディアの扱い方であったり、実際に収監された以降に林一家に降り注いだヘイト行為も、すごく正義とな何かを考えさせられる事件でもありました。しかし、事件当初の報道から林眞須美が犯人という決定的証拠というものが存在せず、状況証拠の積み上げ及び林一家に置かれていた亜ヒ酸と事件に使われたものが同一商品であるという大きく2点が重要証拠として採用され、2002年の和歌山地裁での死刑判決が、2009年の最高裁の上告棄却により確定判決とされ、その後に行われている再審請求の2回目が高裁上告されているというのが、2024年10月時点の状況になっています。

日本は法治国家であるので、実際に起こった様々な事件・事故に関しても法律に則り、各証拠や証言をもとに裁かれるべきです。しかし、袴田事件を振り返ってもそうですが、どうしても人間がやることなので証拠や証言が(捏造とまで言わないまでも)曲解されたり、あるいは分析科学も日進月歩で改良改善されている中で、当時は決定的と思えたことでも、今の技術で再検証すると方法論であったり、結論を出すところでの精度問題で一概にそうはいえなかったりと、後追いで新事実が分かったりすることも然りとなってきます。だからこそ冤罪を生み出さないためにも、犯人に対し事件犯行に有無を言わせないような証拠・証言の積み上げも大事ですし、最終的には犯人に自白をさせること(強要でないかの検証を含め)をメインに進めないといけないと思ったりします。「疑わしきは罰せず」ではないですが、後追いや再検証の場で疑わしきことが起きた場合はコストをかけてでも真摯に再検証することが大きな目で見ると治安の安定につながると思いますし、冤罪の防止や、真犯人の逮捕という本当に罰を与えないといけない人を突き止めることにもなってくるのかなと思います。

本作は、そうした様々な事件の被告となった林眞須美だったり、その夫で当時もメディアに多く登場していた林健治(事件からすごく時間が経過していますが印象は良くも悪くも変わらない、、)、そして匿名登場となっている林家の長男側から見た事件の真相に迫るドキュメンタリーとなっています。戦争でも、こうした事件モノでもそうですが、一方から悪に見えても、対面側から観たら正義となってしまうので、本作も和歌山カレー事件の決定打となった上記2つの証拠にある様々な疑念から、事件の真相は闇の中であり、再審は行われるべき、、という側から描かれています。カレー事件について、すべての証拠・証言(その後の経過も含め)が本作に含まれているわけではないので、これで林死刑囚が本当に冤罪であるのかは意見できるところではないですが、驚くのは、本作自体がカレー事件に林一家が無関係であっても、悪人であることは変わらないという味付けを盛り込んでいることでしょう。当時の報道でもありましたが、カレー事件前に起きている亜ヒ酸を使った複数の保険金詐欺事件ついては堂々と認めていて、保険金を手に入れるためにあの手この手で自らの身体なり、身内の身体を犠牲にして大金をせしめた結果が、報道の舞台ともなった豪邸を立てるきっかけになったということが生々しく証言で描かれていきます。ただ、こうした黒々しい一家であっても、カレー事件を本当に起こしたのか、だれか別人によって引き起こされたものなのかは、やはり疑念がある部分が残る限りは検証し続けないといけないという部分は(上記のように)変わらないと、僕は思います。

<鑑賞劇場>京都シネマにて


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集