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小説執筆の人物描写コツ3選

 私はいにしえの小説書きである。

 理由は分からないのだが、毎回、小説執筆のノウハウについて書いた記事が伸びるので、続いて人物描写について書いてみることにした。

 なお筆者は相変わらずnoteには小説を投稿していない。偉そうに3つも小説の書き方講座を出しておいて、自分は書かないとは厚顔無恥にもほどがある。何か、短編でも上げなければならないか、という静かなプレッシャーを感じている今日この頃である。

 さておき、今回取り上げる人物描写のコツは3つだ。

主人公の人物描写はなるべく早く、詳細に

 読者はあなたが描いた小説を、脳内に広げ、堪能する。その時に主人公の顔が見えないと、うまく想像できず没入感を損ねるので、物語が始まってから、可能な限り早く描写した方が良い。

 また、いうまでもなく、一番重要な人物なので、描写は細かければ細かいほど良いとされる。しかし主人公で、視点主であるがゆえに、容姿について描写する機会は限られてしまう。日常生活でも実感できると思うが、自分のことをマジマジと観察するシーンはほとんどない。

 だからこそ、主人公の描写はコツがいる。

 導入で、神や他の登場人物視点で主人公を描写した後、主人公の視点にうつるという方法を取っても良いが、紙面をうまく活かせない場合は、主人公が自分を見ているシーンから始めるというテクニックがある。

 例えば、

  • 鏡を見ているシーン

  • 自分の写真、動画を見ているシーン

  • 自分の容姿を思い浮かべるシーン

 などである。

 洋子は鏡にうつる自分の姿をチェックした。ふわふわした明るいブラウンの髪に、小さな白い顔。人形のように長いまつ毛、鮮やかに突き出たリップ。細身な体を、白いカクテルドレスに包んでいる。15センチはあるヒールから続くストッキングに1ミリも伝染はない。

 こんな感じで、あえて自分を観察するシーンからはじめてみたりする。

 ところでこの描写、短いか長いか、どう感じただろうか。

 もっと描写しようと思えば微に入り細を穿ち描けるのだが、あんまり長すぎると今度は読者が飽きるので、いい具合にとどめるのがいい。長編ならもっと書いてもいいが、短編なら上記の例ぐらいがいいのではないかと思う。

 私は昔、顔のパーツ全部についてめちゃくちゃ細かい描写をして原稿用紙数枚分使うこともあった……誰が読むんだ……

 なお、この『主人公の容姿をいつどうやって読者に伝えたらいいんだ』問題は、小説だけではなく、一人称視点でのゲームでも直面する。ゲーマーなら、主人公が鏡を見るシーンから始まるゲームを一つや二つ、知っているのではないか。あれは小説の文脈だと思う。どこの世界も苦労があるものだ。

重要度に応じて描写の厚みを変える

 小説は、各登場人物の視点で描写されるので、基本的には「視点主がどの程度相手に興味を持っているか」で描写の厚みを変えた方が良い。

 でも書き手としては、重要人物ほど細かく描写したいだろう。無理もない。ただ、順番が逆である。もしその人物が重要ならば、視点主にとっても印象的な登場の仕方をしなければならない

 例えば、名探偵コナンの安室さんで考えてみよう。

 あの人を重要な登場人物として物語に登場させるなら、例えば豪華クルーズ中、誘拐された先で、今にも殺されそうなところ、突然窓を割って入ってきた安室さんが月光をバックに拳銃を構える。
「無事か!?」タララーラータララーラーララー……(コナンのテーマ)

 多分このシチュエーションでは、視点主も、安室さんの容姿を脳裏に刻み込むため、可能な限り細部にわたって観察するだろう。

 ここで間違えてはいけないのは、このタイミングで、私のように原稿用紙何十枚にも及ぶ安室さんの容姿描写をしてはいけないということだ。小説は文章の長さで時間的な長さを表現するフシがあるからだ。

 このような場面では物事が瞬間的に進むので、安室さんの初登場時は軽い描写で済ませておき、後で助け出された後、ロープをほどいてもらうような時間的余裕のあるタイミングで、ここぞとばかりに描写するのである。

 実際、主人公は他にやることもないから、カッコいい安室さんを細かく観察しても違和感がない。描写のためのシーンを自然に盛り込むのも大事だ。

一番大事なのは「感情」

 人物描写に関して、小説はイラストや映像に勝てない。正直、細かい描写を書き連ねるぐらいなら、挿絵を入れてもらった方が読者にとっても役立つと思う。

 小説が他の媒体に勝てるのは、「感情」だと私は思う。

 イラストでは、注目して欲しい部分の明暗差をつけたり、見て欲しい部分以外を暗くしたり、ぼかすことで、感情を示すことができる。
 (冒頭の洋子の描写なら、つやつやしたリップを強調するとか)

 映像でも、どこに焦点を当てるかや、画面の配置などを駆使し、何に注目しているのかという「感情」を表現することが出来る。

 でも、どちらも基本的には客観的な視点だ。

 小説で出来る人物描写の妙は、感情を乗せられることにあると思う。
 主人公が相手をどう思っているかによって、描写を書き分けることが出来る。

 例えば、同じ人物でも主人公の意識によって、こんな風に変わる。

〇良い感情を持っている場合

 彼は質の良さそうな細身のスーツに身を包み、さりげなくそこに立っていた。袖口からちらりと覗く、ロレックスの腕時計が彼のセンスの良さを物語っている。
 彼が微笑み、白い歯をのぞかせると、それだけで爽やかな風が駆け抜けるような心地がした。

×悪い感情を持っている場合

 彼は明らかに高価なブランド物のスーツに身を包み、腕には見せつけるようにロレックスを光らせている。にこやかにこちらを見つめているが、嫌味ったらしい完璧な歯並びは、象牙を移植したのかと思う程白い。

こっちの方が好き

 どうだろう、これほどあからさまな感情の乗った描写の差は、イラストや映像という媒体で自然に行うのは難しいのではないか。読者が主人公の視点と一体化する、小説という媒体ならではの表現だと思う。

まとめ

 以上、人物描写のコツを三つ、解説させていただいた。

 人物描写は、視点となっている人物の主観的な評価を乗せることが出来るので、主人公の人格に深みを与える重要な要素だ。

 また、読者にとっても印象的な部分である。センスが良いと思われる文章を書くという意味で、頑張りどころでもある。

 ただ、個人的には、どうしても紋切型になりがちなので、容姿の描写は苦手である。なので、できれば人物の初登場時には高品質な挿絵を付けて欲しいと思っている。意識の高い小説書きからしたら甘えとか言われるに違いない……。

 なお、偉そうに語る小説ノウハウシリーズは今までも書いてきた。ご興味があれば、以下もご覧いただけたらうれしい。


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