『おいしいごはんが食べられますように/高瀬隼子』を読んで ※ネタバレあり
ついさっき読み終わったのでそのままの勢いで書き散らします。
主な登場人物は二谷と芦川さんと押尾さん。
みんな同じ会社で一緒に働いてます。
二谷と芦川さんは付き合っているけど、芦川さんのことが苦手な押尾さんは二谷に一緒に芦川さんをいじめませんか?というような提案をして、二谷もそれを承諾します。
これだけ見ると、押尾さんって性格悪いなって思うし、二谷に至っては付き合ってる彼女を他の女性といじめようだなんてとんでもない奴ですよね。
確かにとんでもない奴なんだけど、読み終わると、実は1番とんでもない奴は芦川さんだったんじゃないかな、思わされます。彼女は弱いから強いんですよね。
ちょっとくらい具合が悪くても、我慢して働くのがなんとなく社会の常識っぽくなってるけど、芦川さんは絶対に自分を優先して帰宅します。残業もしないし、大変そうな仕事も他の人にやってもらいます。でもそれは芦川さんが周りに芦川さんだからしょうがない、と思ってもらえるように積み上げてきたものの賜物なんですよね。そこが強かというか、芦川さんの強い部分だと思います。
一方押尾さんは社会の暗黙のルールにのっとって、なんとなく体調が悪くても仕事をするし、誰かが気づいてやらなきゃいけないことは気づいてやるし、チア部だったから強いね、さすがだね、みたいなことを言われても、別にチアをやってたから強いわけじゃないのに、文句を言いません。でも彼女はそんな自分を受け入れてるんだと思います。私ってこういう人間だよな、でも別に嫌いじゃないな、みたいな。そこが押尾さんの強い部分だと思います。
そして二谷。二谷も社会の暗黙のルールにのっとって仕事をします。学生のときから空気を読むというかなんとなくこっちを選んだ方がいいんだろうな、という方を選んでいる印象です。大勢で食べるラーメンが本当は嫌なのに参加したり、本を読むことが好きなのに文学部より就職に有利そうと思って経済学部に行ったり。そしてそのどれもが中途半端な印象です。おいしくないラーメンを大勢で食べるのは嫌だったけどそこに行くまでみんなで自転車に乗ってたのは良い思い出とか、経済学部に入ったけど読書好きが集まるゼミに参加したり。自分のやりたいこと、本当に思ってることを後回しにしてるのに、そんな選択をし続けてる自分をどこかで許せていないというか。そこが二谷の弱いところだと思います。
二谷と押尾さんは芦川さんに嫌悪感を抱いていたり、自分を抑えてなんとなく社会に属しているという似ている部分があるけど、まったく同じではないのはそういうところだと思いました。チアという言葉を借りるなら、自分自身をチアするのが下手という面では2人は似ているけれど、そんな自分を受け入れてるか、受け入れられていないか、という差が2人の違いだと思いました。
二谷と押尾さんは、お互い芦川さんという、ある意味では「敵」を共有しているはずなのに、2人の「わかる」部分がずっとずれ続けていた感覚があります。(この話しの流れであまり関係ないですが、二谷がわかると言ったらわかってないと思われるような気がした、みたいなことを言っていた部分、心の底からわかる〜と思いました。笑)押尾さんは仕事が嫌い。二谷は仕事が別に嫌いじゃない。押尾さんは自分だけ安全な場所にいながら猫を助けたいと思っていたら芦川さんのことを許せる気がした。二谷は許せないかもと思った。押尾さんは捨てられていた芦川さんの作ったお菓子を芦川さんの机に普通に置いた。二谷はグチャグチャにして置いた。探せばもっとありそうだけど、同じ「敵」を相手にしてるのに、なんだかずっとズレを感じました。
なにより二谷は芦川さんのことをかわいいとか、好意的に思う瞬間があります。たぶん単純にタイプということもあるかもしれないけど、自分で自分をチアできてそんな自分を貫いてる芦川さんを、自分で自分をチアできず、そんな自分を受け入れられてない二谷は、羨ましかったりしたのかな。押尾さんは自分自身をチアすることは二谷と同じく苦手だけど、そんな自分を受け入れられてるからこそ、芦川さんに嫌悪感を抱いてるというか、好意的には見られないんだと思いました。
芦川さんは動物としてとても弱い存在だと思います。だって猫が目の前でピンチでも自分を優先してなにもできないし、飼い犬にも家族内で唯一ナメられてますよね。犬にナメられる人の特徴って調べたら、なにをしても優しい、マウンティングされても笑ってる、って出てきました。芦川さんがしてそうですよね。笑 でも芦川さんはそんな弱い自分を存分にアピールすることで、他人からのチアを享受して、自分自身を上手にチアしてるのかな、と思いました。
『おいしいごはんが食べられますように』これって誰目線の願いなんですかね。芦川さんが二谷にそう思ってる感じはしないし、押尾さんが二谷のことをそこまで考えてなさそうだし、二谷自身もごはんをおいしく食べたいとは思ってなさそうですよね。だから作者の高瀬さんから二谷に向けたメッセージかな?って思いました。二谷!おいしいごはんが食べられるといいね!まあ無理だろうけど!みたいな。笑
勢い任せで長々と書いてしまいましたが、ここまで読んでくれた方、ありがとうございました。作品を読んだだけなので、他の方の書評を読んだり、高瀬さんご本人の感想などを目にしたわけではないので、いや全然違うよ!とかそんなこと言ってないよ!みたいな部分があるかと思いますが、自分自身の記録用ということで。
自分はこういう風に思いました、とか、ここ共感です!とかあったらコメントいただけたらうれしいです。
今回この感想を書いていて思ったのは、自分は本を読んでなんか泣けた〜とかめっちゃ笑えた〜という感じより、全部読み終わって、つまり結局どういうことだったんだろう?とか、あそこの表現はこういうことを言いたかったんじゃないか?とか、そういう読後の思考も含めた行為が好きで、そういう思考をさせてくれる空間を持たせてくれる作品が好きなんだと思いました!
読むのも速くないし、読解力もあまりないけど、これからも自分なりの読書を楽しんでいきたいと思います!
↑自分を安全な位置に置きつつ、言いたいことは言った感じ、ちょっと芦川さんっぽい。笑