そして、ムスメが家出した
うちではよく何気ない会話が一転して激しい口論になってしまうことがあります。「言った言わない問題」です。実際内容は怒るようなことではまったくないのですが、どうでもいいことをどうでもいいこととして扱えないムスメは、つまらない事に怒り出し、我を通そうとするのです。おまけに極端な考え方をするため、今回は家出にまで発展してしまいました。
始まりは、いつもただの話し
ムスメとオンライン授業の話になったので、私は働いている小学校のオンライン授業の話を話しました。
その小学校のオンライン授業はまだ試験的で一年生は週一で5時間目だけでした。家に帰って家で受ける生徒と学校に残ってそのまま教室で受ける生徒がいて、初めは先生の指示に従って操作する練習をするのですが「自分のパソコンのマイクをオフにして」と言われても、わざとしない生徒つまりいつもの顔ぶれがまた言われた通りにしないので、手こずるのでした。
その数名が自分のマイクをオンにして騒いだ為、結局授業は乗っ取られてしまったので、先生達は大変だという話しをしましたが、それだけに留まらないのがコミュニケーションがうまく取れない人との会話の難しいところでした。
ムスメが「なんでオフになってるのに聞こえるの? オフにしてたら、聞こえるわけないじゃない?」と言うのです。
会話のルールを教える前は、何を話しても無反応なムスメでしたから、こうして聞いてくれるのは興味を持ってくれているということでいいのですが、この質問から彼女がスピーカーとマイクを取り違えていることが分かりました。
「マイクのオンオフで、スピーカーのじゃないよ」と言うと、「ママが最初にオンと言うべきところをオフって言ったから、どういうことか分からなかった」と言い変えてきたのです。そもそもの負けず嫌いな性格も絡んでくるので厄介なのです。
言い間違いは誰にでもよくあることなので、私は普段から指摘された時は意識して「あ、ほんと? そう言ってた? ごめん、ごめん」と失敗しても大丈夫で、指摘されたら素直に認めるということを学んで貰う為、お手本としてやって見せていました。
けれど、この時ムスメは私が最初から言い間違えていたと言い、普段から私がしょっちゅう言い間違いをするから今回もそうだと言うので、私もムキになってしまいました。
私がなんとか自分を落ち着かせ、ムスメに声のボリュームを下げて話すよう静かに言い続けられたので、ムスメも落ち着くことができたのですが、「私はママが間違えたのを確かに聞いた。 だから、譲れるわけがない。 ママが譲らないのと私が譲らないのと、何が違うの?」と聞かれましたが答えは複雑でした。
違いは、ムスメがした最初の質問にありましたが、そこはどう話しても理解できなそうので、代わりに特性の話しをしました。
ムスメの元々聴くことが苦手なところ、それなのに自分を微塵も疑わないところ、完璧じゃないのに完璧であろうとするところ、人への思いやりよりも事実を取ろうとするところ、優先順位をつけられないため大事なことではない事にこだわり過ぎてしまうところなどなどをつい長く話し過ぎてしまったのです。
結果、彼女は「分からない」とポツリと言って自分の部屋へ行くと「ごめんなさい、ごめんなさい」と病んだ人のように連呼し始めたのでした。
言い過ぎたと気づきましたが、私も疲れていっぱいいっぱいでした。なんでこんなつまらないことで毎回言い争いになるのか、涙が溢れました。
私は頭を冷やす為、寝室にこもった後すぐシャワーを浴びましたが、ムスメはその間、家出を考え決行したのでした。
風呂場から「出たよ」と言って、入るよう促すと同時に玄関のドアが閉まる音がしたので、リビングへ行くと『もうわからない ほんとにごめんなさい』と書かれたノートが置いてありました。
裸のままムスメが何を持って出たか急いでチェックし、慌ててLINEで『すぐ戻ってきて』と入れましたが、無視されました。台風の予報が出ていたので、これから雨が降り出すと話しをしたばかりでしたが、傘は持って出ておらず定期券を持って出ていました。
夜の10時半。こんな時間にどこに行くつもりで出たんだろう? うぶなムスメがあっという間に事件に巻き込まれる事しか想像できませんでした。
モトオとの経験から、なんでも警察に連絡した方が間違いないことを学んでいたので、通報する前にムスメにLINEすることを思いつきました。
「返事をしないなら警察に届けます」と入れて待つと、すぐに「わかった」と返事が来て帰ってきてくれました。その間、四、五十分だったでしょうか。生きた心地がしませんでした。
帰っても追求せず寝かせてあげようと思っていたら、自分から話しをしたいと言うので、そこからムスメの言葉ひとつひとつに耳を傾けました。ムスメは時間をおくと忘れてしまうので、その時話したかったのだと思います。
ムスメは「一般人になるにはどうしたらいいか?」、「どうやって生きていったらいいか分からない」と言いました。私は、あなたは一般人(定型発達という意味だと言う)にはなれないし、なろうとしなくてもいいこと、発達障害のあるあなたはあなたのままで良くて、それはあなたの魅力だと私は思っていること、すぐには直せないかもしれないけれど、ダメな行いは人の話しを聞いてその都度直していけばいいこと、今までそうして生きてきたように、これからもあなたらしく生きていけばいいこと、私はいつも応援していることなど、アドバイスというよりむしろ、ムスメの言ったことに意味づけをしていきました。
ただのどうでもいい話しから、言った言わないで言い争いになり、家出になって、カウンセリングして、最後はハグして泣きました。長い長い金曜の夜でした。私たち親子はまだまだ特性に振り回される日々を送っています。
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