SST(ソーシャルスキルトレーニング)に通って
「白だったらどうしてくれんの?」と凄んでいたモトオでしたが、医者からASDと言われると、あっさりそのまま発達障害専門クリニックに通い始めました。
お金や権力に弱いので医者の言うことは聞いたり、私にそんな口を叩いたことなどなかったかのようにするモトオの態度には腹が立ちましたが、とにかくこの時は前進と思い喜びました。
そのクリニックには、私が勉強してあったらいいなと思われるプログラムがいろいろ用意してあり、SST(ソーシャルスキルトレーニング)もありました。
話が前後しますが、モトオがこのSSTに通い出す3ヶ月前、実はムスメも療育に通い出していたので、その時の話からします。
ムスメの療育@リーフ(Leaf)
ムスメは小6(2015年)で自閉スペクトラム症(ASD)と分かりましたが、この年齢には公的な療育支援がないというか、そもそもムスメのようなグレーゾーンで困り感が少ないと思われている子供の為の公的な療育はないと言われました。
なので、当時リーフ(現在のリタリコジュニア)という出来立てで話題になっていた民間の療育塾が近くにあったので、隔週で通ってみました。
リーフでは親が中央にある居心地の良いオープンスペースで、子供が入っている部屋の様子をそれぞれのモニターで見ることができ、ヘッドホンで声も聞けるシステムでした。
ムスメは受験して入った中学が楽しくなってきたのと、当時プログラムの内容がそもそも女子向きではなく、出来ていることが多かったので1年ちょっと通ったところで辞めました。けれど、ムスメはそこで似たタイプの女の子と仲良くなったり、自分の特性の自覚ができはじめたりと良いこともありました。
子供の療育でしたが、モトオにも共通する問題がテーマでしたので、勉強してもらいたいと彼にも付き添ってもらい初めの頃は家族3人で行っていましたが、モトオは終始そこにいるだけ、という感じでした。応用が苦手な為、自分と共通する特性に気付くことができませんでした。
何回か参加すると「疲れてるから行かなくていいでしょ?」と言い出し、ムスメも「(何も話すことなくいるだけの)パパに来て欲しくない」と言い始めたので、結局、彼が参加したのは数回きりでした。
なんとかこの療育を活かそうと家に帰ってからも、内容報告も兼ねて話しましたが、彼はいつも他人事のようでした。
療育で学んだお陰で、ムスメの方が特性への知識を深め、父親の特性に気づき始めました。『自分を棚に上げて偉そうにしている父親』ということがバレ始め、そもそも良くなかった父娘の関係が更に悪くなりました。モトオが自分勝手なモラハラ言動を止めなかったので仕方ないのですが。
ここでモトオがムスメと一緒に本当の自分を受け入れる努力をしていたら、きっといい家族関係が築けていただろうと思います。
自分の特性を理解して変わってきたムスメと本当の自分を否定し怒りを家族にぶつけ続けるモトオ。同じ特性を持つ二人でしたが、今思えば分岐点だったのだと思います。
大人のSST
さて、モトオが自分のSSTに通い出したのは、ムスメがリーフに通い出して3ヶ月後のことでした。モトオのは1ヶ月に一度でしたが、彼は6ヶ月つまり6回行ったところで「こんなの意味がない!」と言って勝手に行くのを止めてしまいました。
通っている間は、その日どんな話をしたか聞いて更にコミュニケーションを取ろうとしましたが、モトオからは他の参加者を馬鹿にする発言が多く「こんなこともできないなんて終わってる」などと言うので、「あなたもそういうところあるよ」と言うと「あんな奴らと一緒にされたくないね」と不機嫌になるという具合でした。
つまり彼は本当の自分が見えていないのでした。自己肯定感は低いのにプライドが高いせいで、自分をできる人間と思い込んでいて、できない自分は受け入れられないのでした。本当の自分を自ら否定しているのですから生きづらいのは当然で、救いようがありませんでした。
家族会で出会ったベテランカサンドラ
そのクリニックでは「家族のための講習会」もたまに開かれていて、そこで私と似たようなカサンドラのAさんと知り合いました。彼女の夫はこのクリニックに3年通っていて、息子二人も発達障害でした。なので、Aさんは私よりずっと知識のあるベテランさんでしたので、いろいろ話を聞かせてもらいました。
Aさんの夫は、SSTにも長年通っていて、その日どんな話をしたか家に帰ると、Aさんに詳しく話してくれていました。
SSTでは毎回帰り際に、まとめ役の先生から「皆さん、今日家に帰ったら奥さんやお母さん、お家の人に『いつもありがとう』と言ってくださいね」とお決まりで言われるそうで、Aさんの夫は、SSTから帰ると必ず「いつもありがとう」と言ってくれると笑顔で教えてくれました。
その一言で、どんなに違うことか。私もその一言を言ってもらえたら頑張れると思いました。帰っても何も言わないモトオに聞いてみました。
「まとめ役の先生から、帰ったらお家の人にこう言ってくださいって、何か言われなかった?」
すると、モトオは「何も言われていない」と無愛想な顔で答え、話はもちろんそこで終わったのでした。