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【文章】心が柔らかくなる瞬間を。

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写真と言の葉。どこかにある物語。
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2024年9月の記事一覧

宇宙を漕いでいく。

宇宙を漕いでいく。

星が綺麗だ。と、稲穂の匂いがして
上を見上げた瞬間に
星が似合う夜空になってきた。と、頭の中で聴こえてきて。
冬の夜空を想像した。

AM4:30。
半袖じゃ少し肌寒い。
けれど
夜空に見惚れて
自転車を漕いでいく。

田舎道の幸い。
誰もいないので
おぼつかないハンドルさばきでも
問題なく進んでいく。

自転車で、宇宙を漕いでいく。

うそみたいなほんとう。

ねぇ君だったら何を
信じる?

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ジントニックと煙と月の狭間。

ジントニックと煙と月の狭間。

「誰でもいいなら、誰かで埋めてよ。」

そう言って、彼女はジントニックに口をつけた。

午前2時。
常連客がちらほら残っているだけの店内は、薄暗い。

彼女の隣に座っている僕は、返す言葉を見つけられず、ただ耳を傾ける。

「でも、結局さ、私じゃないとダメな場所なんてないんだよね。誰でもいい場所に、たまたま辿り着いただけ。それを運命だなんて嘯いて、適齢期だからって結婚して、不倫は文化だなんて都合のい

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アーケードのバスケットを思い出すだろうか。

アーケードのバスケットを思い出すだろうか。

9月。
残暑が残る夕暮れ時に
気付けばシャッター街になったアーケードを歩いていると

どこからかバスケットボールの軽やかな音が聞こえてきた。

シャッターの閉まった店々が並ぶ。
この通りは、昼間ですら人影はまばらで
どこか寂しげな雰囲気が漂っている。

汗を拭いながら
下を向いて歩いていた。

ふと視線をあげると
通りの先に小学生の姿が見えた。
五人ほどの女の子たちが
活発に
バスケットボールで、

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クロワッサンと夏の日の贈り物

クロワッサンと夏の日の贈り物

8月の上旬。
夏の始まりに心浮かされて。
少し早起きをして、パンを買いに出かけた。

日中に比べると
空気はひんやりと心地よく
街は静けさに包まれていた。
その日は、土曜日だった。

その道中。
開店したばかりの旅行会社の窓口に並んでいるカップルの姿が目に留まった。

こんなに早い時間から
休みの日に、ふたり揃って旅行会社にいる姿を見てなんだかあたたかい気持ちになった。 

幸せって何かを悟るよう

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神様になれない夜に

神様になれない夜に

「神様も、自分で神様になることを選んだのかな?」

華の金曜日。20時過ぎの居酒屋は、騒がしい。

そう呟いた彼女は、俯きがちに
焼酎ロックの氷をカラカラと遊ばせている。

島美人。

この居酒屋に来るといつもボトルキープで入れる焼酎。

ボトルキープのはずなのに、その日の内に飲み終わってしまう。

店を出る頃には、ふらふらのくせに 

それからカラオケに行こうと言って先陣を切って走り出す。

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8月の空とアイスクリームの青

8月の空とアイスクリームの青

「8月32日をほんとに夢見るなんて馬鹿みたいだよねぇ。」

夏休みの終わりが近付いていたその日。
気怠げに彼女は、そう言って駅前のコンビニで買ったアイスクリームを舐めた。

その光景がそれから先「夏」を思う時の代名詞になるとは、知らずに僕は、ぼんやりと眺めていた。

空には、澄み切ったアオが広がり、雲ひとつない。

「例えば、この空のあおさが心だったらどうする?」

隣で同じようにアイスを食べてい

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