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「フィフティ―・ピープル」はまるで夕暮れ空のパズル
「都会の夕暮れ空のパズル」この小説をひと言で表してみると、そんな表現になるのでしょうか。都会の夕暮れ、寒いけれど晴れた日の夕暮れの空を一つ一つのパズルで織りなしていく。。。。こんなイメージを持ちました。
作家のチョンセランさんは、「主人公のいない小説を書きたい」「全員が主人公で、主人公が五十人ぐらいいる小説。一人一人には淡い色しかついていないけれど、全員が一緒にそれぞれの定位置を探していく、そんな小説。」と言って生まれたのがこの『フィフティ―・ピープル』です。
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私がこの作品と出会ったのは、小泉今日子さんポッドキャストの「ホントのコイズミさん」(Spotify)でした。きょんきょんが話しているのを聞いて、読んでみたい!と。
韓国の本は今までほとんど読んだことがなかったのですが、読み始めてみると、次から次へと登場する人物がどの人も魅力的。登場人物の物語のパズルを一つ一つ重ねて絵を作っていく感じで、グイグイ作品に引き込まれていきました。
「病院」という命と関わりが強いロケーションをサテライトに、50人それぞれの物語が織りなします。読んでいると「こういう人、いるよ~」とか「あれ?これってXXさんみたい」と自分の廻りにも存在している感じの人々ばかり。50人それぞれが、生きることへ悩みやトラブルを抱えているのに、そんな中で温かい心や行動がほわっと滲み出てくるのです。読み続けると、あれ?この方、さっきの物語にいたぞ?あれれ~?さっきの物語は、この方の彼女⁈と関連性もあったりして、それがパズル感を演出しているのかもしれません。改めて前の物語を読み直す感じが、とても新鮮でした。
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「この世が崩れ落ちてしまわないように包み込んでいてくれるのは、何気なくすれ違う人々をつなぐ、ゆるやかで透明な綱だと思います。」とチョンセランさんはおっしゃっています。ゆるやかさ、透明。それが、私の中に「都会の夕暮れ空のパズル」を思い描かせたのかもしれません。
実は、チョンセランさんは、この「主人公がいないと同時に、誰もが主人公である物語」のアイディアを東京の渋谷で得たそうです。渋谷スクランブル交差点をビルの上から眺めているとき、大勢の人々が一斉に行き交うようすをとても美しいと感じ、「私が小説に描きたかったのはあれだ」「お互いがお互いの人生と交錯している様子を描きたい」と思われたそう。私にはごちゃごちゃして見える風景も、チョンセランさんには優しく見えたのでしょうか。今度渋谷を訪れる時は、フィフティ・ピープルを思い出し、渋谷に都会の夕暮れの空を見つけそうな気分になりました。
最後までお読み頂いてありがとうございました。何かの役に立てれば、幸いです。