【エッセイ】”その日”から読む本
師走が近づき、俄かに忙しくなった。
去年一昨年と控えていた忘年会も、今年ならと旧知の友人と連絡を取りあう日が続いている。
二年以上会えていない友もいて、家族が増えた人もいれば失った人もいる。会うのが待ち遠しいが、積もり積もった話に一晩で終わる気がしない。
遊びもいいけれど、やならなければならない事もある。私にとっては大掃除や、未回収の原稿料の催促などがそれに当たる。
人によっては、この時期ならではの慣いもあるだろう。
私の母は、毎年年末ジャンボ宝くじを買っている。もう何十年と続けているが、三万円以上当たったのを聞いたことがない。暮らしぶりを見ても、別段隠しているわけではなさそうだ。
私は宝くじに当たったことはないが、一度だけそれに近い体験をしたことがある。
数年前、とある文豪の史実とフィクションを織り交ぜたような話を書き、その作品で身にあまる賞をいただいた。ほどなく賞金が振り込まれ、当時派遣で細々と暮らしていた私は、見たことのない額に舞い上がった。
応援してくれた友人らと毎晩のように飲み歩き、海外旅行に行ったりした。ブランドショップで値札を見ずに買ったり、たいして着ない着物や帯を買ったりもした。
投資にも手を出した。果てには新しい部屋を借り引っ越したり、残高はみるみる減っていった。
今思えば完全にタガが外れていた。不相応な金はよくよく身につかない。
あるラジオ番組に出演した時、同じような人と出会った。聞くと若くして多額の賞金を受け取った彼も、やはり破茶滅茶な使い方をしていた。
どうやら一千万以上の宝くじに当選すると、『その日から読む本』と言う冊子がもらえるらしい。
“その日”は宝くじに限ったことではないと思う。いっそ一般書として書店におけばいいと思うのは、今や後悔先に立たずとなった私だけだろうか。