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#13_【前編】世界のチェンジマネジメントモデル解説

こんにちは、チェンジマネジメントコンサルタントの江田泰高です。

今回は「世界のチェンジマネジメント」をテーマに、世界で最も主流となっているチェンジマネジメントのモデルを2つ紹介します。内容が盛りだくさんの本テーマは、前編・中編・後編の三部構成。どうぞ最後までお楽しみください。

8段階の変革プロセス

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チェンジマネジメントを語る中で、絶対に外してはいけない人物、それはハーバード大学ビジネススクールのジョン・コッター(John Kotter)名誉教授です。コッター氏は、変革する世の中において、どのようにリーダーシップを発揮すべきかについて数多くの研究をしています。彼が1996年に執筆した著書『Leading Change』は、日本語版では『企業変革力』というタイトルで出版されています。


まずは、この本で登場する 8段階の変革プロセス(The 8-Step Process for Leading Change)を紹介しましょう。

この本が出版されたのは1990年代。日本ではバブルが崩壊し、世界的にはWindows95が発売されたことで爆発的にパソコンが普及。IT化へと大きく前進したタイミングです。働き方も、1つの会社で長く働き続ける人が国内でも海外でも一般的でした。現在は一流といわれている会社であるAppleやGoogleは、まだまだ新興の会社でしたね。あらゆる観点から見て、この30年で大きく世界情勢は変わってきたといえます。

コッター氏はこのような大きな変化の波が訪れることを予見していたのでしょう。どのようにマネジメントをすることで変化をうまく乗り越えることができるか、非常にわかりやすくまとめています。

簡単にいうと、経営者が組織変革を推進するには、これらの8つのプロセスが不可欠であると述べています。

1. 危機意識をもつ
 (Establishing a Sense of Urgency)
2. 変革を推進するチームを編成する
 (Creating the Guiding Coalition)
3. 変革のためのビジョンと戦略を立てる
 (Develop the Change Vision and Strategy)
4. ビジョンを周知徹底する
 (Communicate for Understanding and Buy In)
5. 自発的な行動を促す
 (Empower the Others to Act)
6. 短期間で成果を上げる
 (Create short term win)
7. 間を空けずさらに変革を進めていく
 (Never Letting Up)
8. 変革を根付かせる
 (Incorporating Changes into the Culture)


では、それぞれ具体的に見ていきましょう。

1. 危機意識をもつ

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その名の通り、「このままではこの会社は存続できない」「今の時代を生き抜くことができない」と問題提起をし、「我々は生き抜くために変わらなければならない」と強い危機意識をもつことです。

「これができなければ死ぬ」くらいの強い気持ちがなければ、変革は成功しません。なぜなら、経営者が「今やらなくてもよい」と生半可な気持ちでいれば、その感覚は従業員にも伝わります。すると従業員も危機意識をもてず、変革はどんどん後ろ倒しになってしまうのです。当然です。日々の仕事で忙しいのは、どの会社も同じだからです。優先度の低い仕事は後回しになってしまいます。

想像もたやすいと思います。日本企業におけるDX化を考えてみてください。「お金がかかっても時間かかっても我々やり抜く」と危機感をもって進めている会社は成功しています。一方で「最近DX化が叫ばれているから、うちもやってみよう」という甘い考えの会社は危機意識が低く、うまくいっていません。

具体的な指標としては、経営者はもちろんのこと、課長などのマネージャー職が7割程度、しっかり危機意識を持てている状態を目指したいところです。

2. 変革を推進するチームを編成する

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「変革します!改革を推し進めます!」とただ声高に叫ぶだけでは、絵に描いた餅になってしまいます。各部署、各部門ごとに実際にその変革をリードしていくリーダーが必要です。必ずしも専任の人を置く必要はありません。部署を横断的にまとめた変革の推進室をつくることが有効です。具体的には、改善を進めるためのトレーニングやワークショップを実施したり、うまくいっている部署の事例を横展開する役割を担います。

ここで大事なのは推進室のメンバーとして、いわゆるエバンジェリスト、日本語で伝道者と呼ばれるような従業員をアサインすることです。「1. 危機意識をもつ」では、経営者の意識が一番重要と述べました。しかし実際のところ、忙しい経営者が自ら手を動かすことはできません。経営者の考えをしっかり理解し、代弁できるエバンジェリストが強い気持ちで推進していくことが不可欠です。将来の社長候補のような、強いエネルギーのある社員をポストに置きましょう。

3. 変革のためのビジョンと戦略を立てる

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ここでのビジョンとは、「将来的になりたい姿」を指します。「なんとなくやらなければいけないから」では、みんなやりたがりません。「実際に変革をした後は、このような世界になりますよ」「こんなことができるようになりますよ」とワクワクするような未来像をしっかりと描いてあげる。それにより従業員のモチベーションが向上します。

そして「そこにたどり着くためにはいつまでに、どうやってやろうか」と逆算する。いわゆるロードマップとして、「今年はここまで行きましょう、来年ここまで行きましょう、10年後にはここまでもってくんですよ」と具体的に示す必要があります。そうすることで、段階的に変革を起こしていくことができます。

1日で、理想の状態に変えられるわけがありません。むしろ今までやってきたことを変えるには、莫大なエネルギーが必要です。それを加味して、段階的にどれぐらいのスピードで変化をしていくのかを示し、経営者として予算に組み込んだり、適切な人材配置をしたりして、サポートしていく必要があります。だから「変革をする」と声高に叫んでいても、中期長期の経営戦略の中にそれが盛り込まれていないとすればアウトです。

そして、大事なのは「このビジョンを繰り返し伝えること」です。社長挨拶や、新年の挨拶、年度末の挨拶など、一貫したメッセージを伝える必要があります。それができなければ、「本気じゃないんだ。私たちもやらなくてもいいよね」と従業員が思ってしまいかねません。ビジョンや戦略を語り続けることが不可欠です。

ビジョンを立てるポイント

さて、具体的にビジョンや戦略はどうやって立てればいいのでしょうか。コッター氏は、すぐれたビジョンには6つのポイントがあると語ります。

1つ目は、将来の姿が見えていること。そのために何をやらなければいけないかが明確である必要があります。

2つ目は、メリットがあること。社員や顧客、株主、あらゆるステークホルダーにとって期待する長期的な利益があるかを指します。利益のないことをしても、誰もサポートしてくれません。なにかしら、社員にとっての利益や社会的意義が必要です。

3つ目は、実現可能であること。非現実的な理想論ばかり述べていても、絵に描いた餅です。現実的に達成可能な目標がベースになっていることが大事です。

4つ目は、方向性が示されていること。意思決定をするにあたって、将来的にこの方向性に向かっているから今この決断をした、と明確に示せる必要があります。

5つ目は、柔軟性。時代の流れによって「こうしたほうがいい」といった提案が出てきたら、柔軟に取り入れるべきです。大きな方向性を変えないまま、個人が自主的に行動してさまざまな選択肢を取ることを許容することが大事です。

最後は、伝わりやすいことです。簡潔に説明できるビジョンでなければ、伝わりません。
経営者が思いの丈をぶつけたとしても、あまりに内容が複雑だったら、中間管理職のマネージャーたちは十分に咀嚼できません。そうすると、下のメンバーにも伝わりません。そのため、ある程度シンプルなメッセージが求められます。3~5分ほどで説明できる内容が目安です。

4~8段階については、次回の中編で紹介します。


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