筆圧とUFOと散髪、水色リキッドソープ
引っ込み思案な巨人が
掛け布団から綿をとりだして
夏の青空と地平線の間にそっと置いた
もう夜もすっかり暑くなった
水色の恋
遠い匂いが夏からはする
ところで
眠れない夜には
あいかわらず詩を書いているよ
わたしは詩を書くことが好きだから
月の黄色い光 暗闇の輪郭なぞる
夜のキッチンでは
ひねった蛇口から出る水飛沫が
銀色のシンクを叩く音が
(やけに)遠くまで聞こえるものだ
お金のなかったあの夏に
海辺の道をずっと歩いて
夜の八時頃にはいった定食屋を
まだ覚えてる?
混乱していたメニュー表
少しばかり多かった店主の言葉数
隣のシングルマザーのあっけらかんとした色の食器
まだ覚えてる
それはそれは淡い色のティーシャツ
汗染みが水を含んでくちを閉ざしていた
風呂上がりの乾いていて
軽い身体はきみへの想いに似ている氣がして
愛ってそんな感じなのかもとおもった
水滴インク溜まり涙のあとを冷やかす夜風
砂浜の影すぐ忘れてしまう人のありけり
忘れてしまえない人も勿論 ありけり
愛の証に
並んで歯を磨いたり
お揃いのパジャマを買ったりしよう
世界には多くの問題が
チラシに載っていた
近所のスーパーの特売品のように山積みで
でも 風の柔らかさを愛せない人には
自然な息の吸い方はわからない
どうしたって
子供の笑い声がする光の線
窓際にかわるがわるやってくる
いくつかのモチイフ
変則的にたわんだりぴんとはったりする
いったりきたり
忙しなく惑星間を移動する
円盤型飛行船
星空のあいだをぴゅんぴゅん
窓際の古い書き物机
萬年筆を手にわたし 空を見上げていた
海を斜めに持ち上げて写真を撮る時のように
片方の肩だけ くいっとあげて
ねえ
長くなる前には髪を切るよ
予約してさ
パジャマ5個分くらいのお金でさ
ひとりごとのしぼった音量に
手洗い場のふるい水色のリキッドソープ
てのひらのなかでゆれて
ゆれていた