地下鉄の扉の向こうに広がる風景
地下鉄に乗って 浅田次郎 1994
地下鉄に乗る人々の人間模様が
描かれた物語と思い、読み進めると、
想像以上の展開に驚かされた。
物語は、主人公の父との確執を軸に、
地下鉄の駅から時空を超えて展開し、
思いもよらぬ方向へ収束していく。
主人公が生きている現在、
街に地下鉄が開通した幼少期、
戦後の混乱を生き抜く父の様子、
それぞれの時代の空気感と、主人公の
揺れ動く感情がひしひしと伝わってくる。
臨場感あふれる描写は、その時代に
居合わせたような錯覚を受ける。
扉が一枚一枚開かれることによって、
徐々に真実が明らかにされていく
緊張感みなぎる作品である。