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岸田奈美さんインタビュー(書評ラジオ「竹村りゑの木曜日のブックマーカー」11月25日/12月2日放送分)

※MRO北陸放送(石川県在局)では、毎週木曜日の夕方6:30〜6:45の15分間、書評ラジオ「竹村りゑの木曜日のブックマーカー」を放送しています。このシリーズでは、月毎に紹介する本の一覧と、放送されたレビューの一部を無料で聞くことが出来るSpotifyのリンクを記載しています。

インタビュー前編(ご家族やエッセイについて)

インタビュー後編(インターネットで伝えることについて)

※スマホの方は、右上のSpotifyのマークをタッチすると最後まで聴くことができます。

<収録を終えて>
今回は、人気エッセイストの岸田奈美さんへインタビューをさせていただく機会を頂戴しました。日本テレビ「スッキリ」のコメンテーターで、NHKの東京2020パラリンピックでもテレビ出演されていたことからご存知の方も多いかと思います。

番組の中でも話題に上りましたが、岸田さんはお父様を早くに亡くされ、心臓の大手術を経験し車椅子生活を送っているお母様、ダウン症の弟さん、物忘れが激しくなってきたお祖母様、そしてトイプードルの梅吉とともに生活を送っていらっしゃいます。エッセイにも度々登場するご家族とのやり取りは、とてもユニークで、やっぱり大変そうで、でも笑ってしまうほど明るくて、そしてじんわり胸に響きます。

実はインタビューをさせていただく直前に、岸田さんは衝撃的なエッセイを投稿してらっしゃいました。

※現在は有料公開となっていますが、素晴らしい記事だったので関心のある方は是非ご覧いただけると嬉しいです。

今年の10月、わたしがTwitterで投稿したダウン症の弟の写真に、「ガイジ(障害児)は生きる価値なし死ね」と返信をした人がいました。

岸田奈美「死ね」と言ったあなたへ

ショッキングな書き出しから始まるこのエッセイには、障害のある方を攻撃するTwitterアカウントから送られてきたメッセージに、岸田さんがどのように向き合ったかが綴られています。
あまりに幼く浅はかな言葉を、しかし岸田さんは放置することなく、なんとメッセージの送り主にコンタクトを取り、本人やご家族と話し合うのです。一歩踏み込んだ先に見えてきた、メッセージの送り主の姿や人生の形はとても意外で、救うことと救われることが、歪み捻れながらも一本の糸で結ばれていることが伝わってきます。


岸田さんて、どんな方なんでしょうか。

インタビューの応対も終始にこやかで、zoomを介した収録方法に戸惑い、体制を整えるにも時間を頂戴してしまった我々番組スタッフにも、嫌な顔ひとつせず明るく対応してくださいました。

そして、その背景に、人生に対する岸田さんの強い集中力を感じます。
様々な工夫が必要な家庭環境で育ち、現在はメディアに出ることで、人よりも何倍も求められることの多い生活を送ってらっしゃると思います。でも岸田さんのエッセイや、インタビューの際の言葉や表情からは、投げやりなものやアイロニカルなものが微塵も感じられないのです。ご自身の人生を大切に抱っこしてらっしゃる人だというのが、インタビューを終えての私の印象です。

ちなみに、岸田さんは今年10月に新刊『傘のさし方がわからない』を出されたばかりです。

 岸田さんがnoteに綴ったエッセイの中から、厳選されたエピソードを抜き出しまとめたもの。全財産をはたいて外車を買ったお話や、怪しすぎるマルチ商法の勧誘に付いていったお話、『名探偵コナン』の登場人物である光彦へのエールなど、泣いたり笑ったりできるお話が沢山掲載されています。

私が1番印象的だったのは「30年後、きみのいない世界で」という章です。
岸田さんがiDeCoの申込書類を書きながら、積立金を受け取ることのできる60歳以降について思いを馳せる一場面が描かれています。岸田さんはそこで「そのときには、きっと母も、障害や平均寿命のことを考えるとひょっとして弟も、私のそばにはいない。そんな世界で、わたしだけ生きていくためのお金がはたして必要なのだろうかと考えてしまった」と書いています。

私はここで、ちょっと絶句してしまいました。岸田奈美さんという30歳になろうかという女性が今まで背負ってきたものの重さに、打ちのめされてしまったのです。

消えてなくなりたいほどの悲しみの中でも、身体は生きようとする。
そういう日々でも、なんとかやってこれたのは、母と弟がいたからだ。父の死を乗り越えたのではない。正面を向いてスクラムを組み、豪雨と吹雪に耐え、力つきそうになれば互いを揺り動かし、飯をわけあい、たまに冗談もいい、とにかく悪天候が止むのを待つ。気がついたら、晴れていた。わたしたちが送ってきたのはたぶん、そういう時間だ。

岸田奈美『傘のさし方がわからない』

心の柔らかいところ、弱いところを、すとんと綴ってしまう人。
こういう方がもっと増えたらいいなと思うし、自分もそうでありたいなと思います。そして、そうであっても生きていける世の中であればいいなとも。

インタビューの前編では、ご家族やエッセイを書くようになったきっかけを伺いましたが、後編はSNSでの発信について、そして伝えるということについて聞かせていただきました。私は特に後編がお気に入りで、岸田さんの「言葉の余白を考える」という言葉が心に残りました。どんな文脈でお話されたのかは、ぜひ上のリンクから聞いていただけると嬉しいです。

それでは、今回はこのあたりで。
またお会いしましょう。

<了>

記載したSpotifyのリンクから聞くことが出来るのは、番組の一部を抜粋したものです。BGMや、番組を応援してくださっている「金沢ビーンズ明文堂書店」のベストセラーランキング、金沢ビーンズの書店員である表理恵さんの「今週のお勧め本」は入っていません。完全版はradiko で「木曜日のブックマーカー」と検索すると過去1週間以内の放送を聞くことが出来ます。

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