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Fates Warning / Long Day Good Night

Fates Warning(フェイツ・ウォーニング)は1982年結成、1984年デビューのアメリカのプログレ・メタルバンドで、プログレ・メタルというジャンルの祖、源流のひとつともされています。ドリームシアターやクィーンズライクよりも古く、ドリームシアターのマイク・ポートノイはこのバンドからの影響も公言しています。さて、そんなベテランの2020年、13枚目のアルバム。さすがの完成度というか、オリジネイターとしての凄味を感じる作品でした。今のプログレ・メタル的な音像ではなくもっと古い、70年代、80年代のプログレからの影響も感じます。実験性や目新しさはなく、ジェント感や超絶技巧感もないけれど、そもそも楽曲がいい。プログレ好きにはたまらない曲展開、完成度です。長尺曲を悠々と聞かせきり、どの曲もキャラクターが立っている。プログレメタルというより、プログレ好きなら聞いて損はない一枚。

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2020年リリース

★ つまらない
★★ 可もなく不可もなく
★★★ 悪くない
★★★★ 好き
★★★★★ 年間ベスト候補

1.The Destination Onward
静かな、アンビエント的な音からスタート
浮遊するような、ブライアンイーノ的な
微かに響いているのはギターのアルペジオ、展開していく
低音、ベースが入る、シンバルがなる、ギターのリフが響き始める
だんだんと起動する
ボーカルが入ってくる、かなりスロウでヘヴィなリズム
遠くから響いてくるような
ロングトーンのギター、粘りがあるギター音
クリアトーンのボーカル、どこか砂漠というか、荒涼とした光景
急にテンポが上がる、起動完了
ドラムの手数がかなり多い、ギターリフはいくつかのサウンドレイヤーが重なっている
ザクザクした突進力のあるギターの刻み
ドリームシアター的な、プログレメタルの文脈、まぁこちらも源流と言えるわけだが
シーン展開していく、物語性のある探索するようなヴァースから展開感のあるコーラス
バッキングでギターがロングトーンのメロディを鳴らす
音作りは開放感があるがかなりギターの音は歪んでいる、プロダクションは軽やかだがヘヴィなリフ
ドラムはけっこう音も手数もパターンもヘヴィ、ベースがタイトだからか
ベースとドラムがかっちりしてボトムをささえ、ギターは二重三重にサウンドレイヤーを作る
あまりキーボードは感じない、専任プレイヤーはいないのだろうか
アンビエント音は入っているが耳を惹くキーボードフレーズやソロはない
しょっぱなから長尺の曲、8分12秒
しっかり展開しきって終曲
★★★★

2.Shuttered World
スリリングな警戒を誘うロングトーンのギター
そこからミドルテンポのツーバス、ヘヴィな進撃
訴えるような、警句のようなボーカル
ミドルテンポのメロディ、テンションがかかったヴァースからメロディアスなコーラスへ
ドラムがツーバス、タム回しの手数が多い
バスドラの音がかなりヘヴィ、ベースとのユニゾンだな
ギターはコードとうねり、けっこうサビはパワーメタル的な音像とメロディ
ソロやヴァースはプログレ的な、無調、マイナーでもメジャーでもない音階が出てくる
間奏でテンポチェンジ、少し駆けていく感じ
ふたたびコーラスへ、何か戦場というか、争いの叙事詩的な光景を思い浮かべる音像
5分14秒
★★★★

3.Alone We Walk
控えめなギターの刻み、逆チャンネルでは幽玄なギターのコード
ボーカルが静かにメロディをつぶやく
刻みと呼応するかのようなアルペジオ、左右チャンネルでギターが絡み合う
ポリリズム
ドラムが入ってくる、かなり拍をいろいろと変えてくる
プログレメタル的な変拍子感が強い曲
とはいえ断片的な感じは受けず、メロディが流れていく、自然な感じが流石にうまい
歌メロの入りも拍を食い気味
それぞれのパートが少しづつ拍が変わっているが全体の小節としては帳尻が合っている
時計の刻みのようなフレーズ、機械仕掛けのような音が入る
ふたたびコーラスに戻り終曲
4分台
★★★★

4.Now Comes the Rain
ミドルテンポでゆったりした進行、音が明るめ
拍子がしっかり合っている、前の曲との対比が効いている
コード進行や歌メロも比較的最初からわかりやすい
アレンジもシンプルながら、コード進行は凝っている
リズムはどっしりと安定している、抒情的なメロディ
間奏で少し転調感、リズムも変わり抉るようなリズムに
ドラムの連打で一度静かになる
機械音のような、不穏なリフと何かの打音
ボーカルが入ってくる、洞窟を探るような
ハーモニーが光のように差し込み、コーラスへ
それほど長くない曲ながらドラマ性が高い
4分14秒
★★★★

5.The Way Home
チャイムのような音と明るめなコードのアルペジオ
ボーカルが入る、テンションはかかっているものの美しいメロディ
左右チャンネルでアルペジオとコードのかきならし
バラード的にリズムが静かに入ってくる、ジャジーで控えめなドラム
ベースもゆっくりとボトムをささげる
ハーモニーが美しい、ボーカルが哀切な表情を見せる
途中から拍子が変わり、どこか彷徨うような、弾むようなギター音
ミュートの効いた刻み、ジャジーなパート、だんだん音が歪んでいく、少しづつヘヴィなリフが入る
フュージョン的なフレーズのギターも続く
ギターリフは少しづつ拍がずれポリリズムを作る
リズムがかみ合ってヘヴィなパートへ、けっこう曲の半分ぐらいまで静かなパートでそこからヘヴィになる手法が持ち味なのかな、1曲目もそうだった
ボーカルのメロディに連続性は感じるがコード展開が違う気がする
静かなパートではメジャー感があったがヘヴィパートだとマイナー感が強い
じっくりと展開するメロディ、ボーカルも駆け上がっていく
一度クライマックスを迎え、ふたたびミュートで問いかけるようなギターパート
リズムは1回目より力強い
ギターもフレーズのつながりが強くなっている
サビへ、ボーカルが終わったら楽器隊がより騒ぎ出す、生命力を感じる
終曲、7分43秒
★★★★☆

6.Under the Sun
弦楽器の合奏から
一通りイントロが終わったらアコースティックギターのカッティング
そこにエレキのギターコードがドローン音で入ってくる
かなり霞がかった音像
ボーカルが入ってくる、ボーカルはクリア
ドラムとベースが入る、何か旅の途中で村にたどり着いたような
今までの旅を振り返るような
どこかフォーク、トラッドを思わせるメロディ
プログレ感は薄い、変拍子はあまりなくメタルバンドのバラードという趣
メロディはマイナー感が強い
途中から展開し、より旅立ち感がある、開放感のある大サビへ
ギターソロも爽やかなフレーズ
どこのバンドだったっけな、USかUKか
メロディ的にはUKっぽい気がするな、もしかしたらカナダとかか
5分49秒、美しい曲
★★★★

7.Scars
遠くから響いてくるようなエフェクトがかったスクリーム
そこからバンドサウンドがなだれ込んでくる、手数の多いギターリフ
緊迫感のあるリフとボーカルメロディ、各パートが絡み合う
跳ねるようなリズムだがどっしりしている、ギターも少し跳ねている
躍動感がある、ボーカルもだんだん熱量が上がっていく
ツインギターのリフの絡みが心地よい、ギターフレーズでポリリズムを作るのがこのバンドはうまい
左右のギターの絡みでリズムが多重化していく
ギターソロへ、フレーズに対してリズムまでユニゾンする
バンド全体のサウンドが絡み合い、揺れている
ややオリエンタルなフレーズ、コード進行
コーラスが戻ってくる
楽器隊がリフを奏で、上昇して終曲
★★★★☆

8.Begin Again
雰囲気ががらりと変わりアーシーでブルージーなギター
そのままギターリフへ、ゆがみの少ないパンテラのようなリフが一瞬出てくる
ボーカルはメロディアスなのでだいぶ印象は違うが、90年代のヘヴィでグルーヴィーなメタルっぽい表情
この曲はアメリカっぽいなぁ
だんだんハーモニーが重なっていき、美しい印象に
メロディとハーモニーがしっかりある
ところどころアコギが入ってくるのが面白い
ブルースといえばブルースの進行がずっと続いている、リズム的にも
後半になると完全にこのバンドならではの音像
アルバムのバリエーションとしては美味しい曲
4分6秒
★★★★

9.When Snow Falls
ちょっとインダストリアルな表情、ポストロック的なアルペジオ
エフェクトが効いて打ち込み感もあるドラム音
探るような音像だが、リズムは明快
ボーカルもクリアでメロディがしっかり立っている
けっこう分かりづらいコード進行やメロディなのだが分かりやすく感じるのはこのバンドの力量なのだろう
決して分かりやすかったり、クリシェをなぞっているわけではないと感じるのだが、メロディとしては不自然さが少ない
ジャズやブルースの語法やコード進行なのだろうか
考えてみるとアメリカ的、ブルース的なメロディかも
演奏がハキハキしていて明瞭だから、そのハイブリッド感が面白い
★★★★

10.Liar
80年代ハードロックのようなギターリフから、ただ音階がひねくれている
バンドが入ってくると拍子がそれぞれ絡み合って表情がモダンに
とはいえ、テクニックの極北を目指しているような感じはうけない
メロディは自然だし、古臭いというよりはルーツをしっかり感じるというか
けっこう厚いハーモニーが乗る
ギターリフはやや不協和音気味というか、テンションが強い
半音同士がぶつかる
とはいえ不快感は少ない、ボーカルが真ん中でメロディを進めていく
アルバムも後半になっているが、ずっと聞いているとだんだんこのバンドのメロディセンスに浸ってくる
さまざまな要素の組み合わせがなかなか他にない
ちょっとポップなメロディというか、歌心を感じるのだが決してポップとは言えないメロディ
絡み合う各パートの演奏、ポリリズムなどもあるが分かりやすくシンプルな構成も出てくる
けっこう分厚い、産業ロックのようなコーラスでポップ感を出すがかなり和音的には複雑
ちょっとツーバスになって終曲
★★★★

11.Glass Houses
やや攻撃性の高い始まり、ツーバスでスタートするが間欠的
疾走感は強くないがアップテンポ、流れの中だとスピードがあがったように感じる
ハキハキしている、ギターとボーカルのリズムの掛け合いが心地よい
ギターのリズムのキレが素晴らしいんだな、それが気持ちいい
ドラム、ベースも絡み合う、ボーカルメロディもシンガロング的
間奏も景色をかえつつテンションは下がらず、ドラムの疾走感がある
ドラムが分散リズムを叩くブリッジ
ふたたび突進してコーラスへ
コールアンドレスポンス的なフレーズへ
3分台で終曲、コンパクト
★★★★☆

12.The Longest Shadow of the Day
11分29秒ある大曲、タイトルトラック
かなりフュージョン的な、パットメセニーグループのような始まり方
繰り返しのギターパッセージに自由にうねるベースが入る
小刻みなドラム、ジャジーな雰囲気が強い
ジャムセッション的だが曖昧さはなくスリリング、かなりかっちりしている
ベースソロ、心地よい
なるほど、出自はジャズやフュージョンなのだろうか、そういう要素がこのバンドのルーツにあり音に特異性を生んでいるのかも
ツインギターでメロディアスなフレーズ、パワーコード的な和音が入る
急にメタルパートへ、刻み、バタバタする切り刻むリフにマシンガンのような小刻みのリズム
切り込んでくる鋭い反復ギターリフ、リフの刻み、スラッシュメタル的
ギターリフの刻みの正確さ、リズム感が心地よい
ソロが切り込んでくる、じっくりとした展開、ここまで4分
ボーカルは入ってくるのだろうか、ふたたび反復フレーズへ
この辺りの繰り返し感、展開を少し焦らして酩酊させる、みたいなところは好き嫌いは分かれるかも
展開するかと思って引き延ばす、みたいなところはある
と思ったらテンポは変わらないがドラムの手数が倍ぐらいに増え始めた、ドラムソロ的な猛打
クライマックスを迎え静かなパートへ
ギターのアルペジオ、跳ねるような不思議な音、SE
ここでボーカルが入ってくる、今だいたい曲の半分が終わったところ、6分
不思議な和音、つかみどころのないパート
から、同じコード感のままヘヴィな音の塊と共にボーカルへ
ボーカルは同じメロディ、ギターソロが入ってくる
スライドギターだろうか、デイヴィットギルモア的ともいえる音響的なフレーズ
から、機械的なゴリゴリとしたベースリフ、雰囲気が変わり、潜っていくような
ギターが入ってくる、ギターは波のように押しては弾く
左右のチャンネルでリズムが違う、ギターのポリリズム
ボーカルが入る、各楽器パートが絡み合う
テンションがじわじわ上がり、ハーモニーで高音まで突き抜ける
ベースはリフを続けている、反復による緊張感、ポリリズム
ギターソロが入る、けっこう弾きまくる、熱量が上がっていく
フェードアウトに入る
30秒かけてゆっくりフェイドアウト
惜しい、最初はいい出だしだったがクライマックスがもっと有無を言わせず盛り上がってほしかった
★★★★☆

13.The Last Song
大曲で〆るのかと思ったらもう1曲あった、その名もラストソング、まんまか
アコースティックギターのアルペジオにギターソロ
ボーカルが入ってくる、アコースティックバラード
アルペジオはかなり低音が効いている、深い音
あまり弦を擦る音は聞こえない、スムーズで正確な音
マイナーともメジャーとも取れない独特なコード進行感だが哀切な表情が強い
ほぼギター二本とボーカルだけの曲
余韻
★★★☆

全体評価
★★★★☆
一曲一曲のキャラクターが立っている、突出した曲はないが、どの曲もレベルが高い
各楽器がうまく、リズムが正確、いろいろなパートの絡み合いがポリリズムの気持ちよさを出している
何かどこかで強制的に耳が惹かれて、呆然とするような瞬間はなかったが、緊張感が途切れる場所もなかった
目新しさはあまり感じなかったものの、このクオリティの音楽を1時間以上作れる力量はすごい
どちらかと言えば同時代性とか地平を切り開くというよりは、どこかそうしたものから断絶しているのかも
プロダクションとか編曲とか、モダンと言えばモダンだし古臭いといえば古臭い
盛り上がりきらないのが、かえってアルバム全体で見た時には統一感というか酩酊感があって良いのかも
長尺の曲は長尺を活かしているというか、展開の速いパートが続くといより「長い曲なんだからじっくり展開しますよ」といった意志を感じる
ジェントとか今のプログレメタルというより、80年代、90年代のネオプログレ、ポンプロック的な悠然とした構成
とはいえ音はそれなりにモダンでアグレッションも高い、特にリズム隊はけっこうヘヴィ
この前出たConcepcionのアルバムにやや近い空気感かもしれない
こちらの方が楽曲の完成度、プロダクションの質、バンドの練度が高い

リスニング環境
昼・家・ヘッドホン

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