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Fish / Weltschmerz

元MARILLION、といってもソロ活動のほうがずいぶん長くなりました、プログレッシブロックのボーカリスト、吟遊詩人、フィッシュの2020年作。7年ぶり、11枚目のスタジオアルバムです。10曲ながら84分とかなり長尺。スコットランドのルーツを感じさせるケルティックな音階や、ブリティッシュ・トラッドの影響を感じさせつつ独自の幻想と現実が入り混じる独自の世界観を築き上げた良作です。ネオ・プログレ、ポンプロックの流れを汲んだ作品ですが、演奏技巧や各楽器のソロパートで魅せるのではなく、作編曲による世界観の描き出し方に特長があります。じっくりと世界観に浸る作品。

2020年リリース

★ つまらない
★★ 可もなく不可もなく
★★★ 悪くない
★★★★ 好き
★★★★★ 年間ベスト候補

1.Grace of God
話し声とキーボードのフレーズから
追憶シーンのような音
アコギのアルペジオのような音
吟遊詩人Fishの歌が乗る
抒情的、弦楽器の音も入ってくる
心地よいメロディ
じわじわと展開していく、バッキングの音がだんだんと増えていくが上品
ドラマ性が上がっていく
良いオープニング
そこから別の曲のようになりアコギの弾き語りに低音のドローン音
英国フォークの薫り
イアンアンダーソンの近作にも近いがもう少し音の質感が重量がある
オーケストラが入ってくるが、打楽器の手数が多い
上品な中にもロックとしてのダイナミズムがそれなりにある
ミドルテンポだが落ち着きすぎておらずスリリングさはある
Fishの作家性だろうか、現役感がある
★★★☆

2.Man With a Stick
少し変わった、空間的な音作り
エイドリアンブリューのソロ作を思い出した
歌メロもポップ
ややニューウェーブ感がある
とはいえボーカルの歌い方はひねくれた感はなく、いつものFish
歌メロがメロディアス
Upのころのピーターガブリエルほどではないが、しなやかなリズム
モーニングコーヒーを飲んでいる背広の男、帽子をかぶっている
自分の家の台所かとおもったがコートを着て帽子をかぶっているということはカフェだろうか
秘密を持った、何らかのエージェントの風景が浮かぶ
なんだろう、どこかスパイ映画のような、日常の哀愁にしてはスタイリッシュすぎる音作りなのか
コーラスがけっこうあっさりしていて抒情性が低い(それこそThrak期のキングクリムゾン的)だが、
そこに至るまでがかなりメロウなメロディ
オケはあまりテクニカルさは感じない、演奏技巧より編曲能力が高く音の重ね方が上手い
★★★★

3.Walking on Eggshells
アコギに合わせてミニマムなキーボードフレーズが乗る
ささやくような歌声、Fishの声は芯が強いのでささやくとはいえしっかり聞こえる
今回はメロディの質が高いな
英国の薫りを強く感じる、あまりアイリッシュ、ケルト感は今のところない
反復するギターフレーズ、オケで弦楽器が幾重にも重なる
リズム展開し、エフェクトがかかった声がメロディをなぞる
少し緊張感が高まった後アコギ弾き語りと明るいキーボードの音
開放感のあるメロディ、音作りにシーンが変わる
なんとなくプログレ感はあるが曲展開が激しいわけではない
さまざまな曲のパートが組み合わさっていて一筋縄ではいかない、先の展開が読めない印象はある
弦楽器が幾重にも重なってきて、ドラムも手数が増えていく
男声と女声が出てきてポリフォニーで絡み合う
★★★☆

4.This Party's Over
ケルティックな要素が出てきた、バグパイプ的なフレーズ、口笛のような音
アコースティック
6拍(3拍×2)で循環するというリズム
間奏では8拍になる、Fishらしいリズム、インターナルエクザイルもこのリズムだったような気がする
ピーターガブリエルのソルベリーヒルも変わったリズムだった
こういうひっかかりのある曲は面白い
★★★★

5.Rose of Damascus
アコギのアルペジオからスタート、リバーブが強く空間を埋めている
アコギのアルペジオにユニゾンするボーカルライン
ささやくような歌い方が続く
弦楽器が音階上昇していき、リズムが変わる
ギターのカッティングが小気味よくなりダンサブルになる
これも6拍循環だが4曲目よりはひっかり感が少ない
ヴァースは8拍
丁寧に作られた曲
場面が展開し、ゆっくりと語りかけるような曲調に
弦楽器の上でスローなアルペジオとボーカル
メロウなギターソロ、哀愁あるコード進行
集中力が途切れてきた、眠気も強い
15分あるのかこの曲
じっくり展開すぎて15分はやや、つらい
最後の方でアラビックな音階と伝統楽器が入ってくる
何度か聞くと印象が変わるかも、体力切れ
★★☆

6.Gaden of Remembrance
ピアノ音、映画で使われるような
光差し込む音楽室で少女が弾きそうなドラム音
深い声のボーカルが乗る、これはピーガブっぽい、ファーザーサンあたりの質感を感じる
メロも美しい
マグニフィカントフィールド辺りも近いか
娯楽性が高いわけではないが、つまり地味だが、良いメロディ
展開が穏やかすぎる
最後は盛り上がる
★★★☆

7.C Song
アコギとバイオリン、カントリー的な始まり
ゆっくり歩くリズム
集中力・体力の勝負になってきた
良いメロディ、いいコード進行なのだが眠気が襲ってくる
こういうメロディ展開が好きで好きで仕方がない人もいるのだろう
クオリティは高いと感じる
休んで、泊りがけの集団は楽しそうだ
パーティ感が出てきた
ゆったりだがハーモニーが分厚い、キャンプファイアーで皆で歌う感じ
そんな映像が浮かんだ
★★★

8.Little Man What Now?
ゆったりしたリズム、対あたりのフロイドのリズムにも近い
ただ、あそこまでポップなメロディはない、もっと語り的なメロディ
所々出てくる管楽器、サックスだろうか
言葉のテンポは速い、歌詞を聞かせる感じの曲なのか
一曲一曲が丁寧に作られているがドラマ性が似ているのが惜しい
やはりソロアーティストだなぁ
ロジャーウォーターズのソロにも近いかも、いい曲なんだけれど何か娯楽性に欠ける
ただ、聞いていて心地よいのは確か
ややジャジーに展開した、迫力が出てきた
クライマックスに向かっていくのか、緊張感のあるパート
こうした緩急が出てくるとFishのボーカルの説得力が増す
★★★★

9.Waverley Steps(End of the Line)
時計のようなアルペジオ反復音、先にも後にも進まない
よりテンションコードのままで展開し、ボーカルが乗る
ゆったりしたテンポから、アコギが入ってきて開放感ある管楽器
急に元気になる、眠気が覚めるようだ
なんだこの躍動感は
そもそもこのアルバム、10曲で84分ある、かなり長尺
こうしてアルバム全体で緩急をつけているのか
単体で聴けばそれほど開放感がない気もするのに中盤のまったりパート(5~7曲目)との対比ですごく勢いを感じる
やはり音楽は時間の芸術だ、84分という時間をどう使うか、どういう情景を見せるか
大きなキャンパスをしっかりと埋めていっているベテランの底力
ハーモニーをつかった盛り上がり、コード進行も展開しながら間奏へ
歌メロも反復ではなく展開していく
一度静かになり、再び勢いのあるパートへ、管楽器ではなくスライドギターとアコギで盛り上げる
スライドギターが幽玄な別世界の呼び声のようにも、女声クワイアのようにも聞こえる
少し女声コーラスも入っているようだ
最初のパートに戻る、マリリオンのBraveあたりの抒情性、静かなドラマ展開を感じる
楽器隊のフレーズ、インストのフレーズに頼らず曲構成で押してくるのは特色であり魅力とも言えるか
そのあたりが日常感がある、各キャラクターが極端に前面に出てこないというか
語り部であるボーカルのト書きによって物語が進行していく
★★★★

10.Weltschmerz
ギターの反復リフに分散ドラム、ボーカル
曲はゆったり展開していく
ここまで慣らされていたので集中力が増している、どんなドラマが展開するのだろう
むしろ長尺の曲を期待している
最終曲でタイトルトラックなので、期待が高まる
だんだんと盛り上がってきた、テンポは変わらないが手数が増えコーラスが厚くなる
また静かになりボーカル一本に戻る、反復リフが消えた
反復リフが戻ってきた、ドラム音の主張が強くなり、女声のコーラスが入ってきてボーカルラインと対峙する
オリエンタルなギターソロ、洞窟の中の儀式のような強い反射、残響音
Up期のピーガブの色を感じる
★★★★

全体評価
★★★★
5~7曲目あたりのテンションがかなり下がる印象がある
が、その後盛り上がる。アルバム全体84分という長尺の時間をうまく活かしている
中だるみさえもその後のカタルシスに利用しているのかもしれない
ベテランらしい良作、ただ、本当にこの時間に浸ることによる快楽なのでやや特殊かも
耳に残るフレーズがあったかと言われると初聴で口ずさめるメロディもあまりないが、
音の勢い、ドラマとしては盛り上がりどころが多く、それが時間をかけてじっくり押し引きする
プログレ好きにはお勧め、曲単位で聴くならまずは2,4だろうか

リスニング環境
夜・家・スピーカー

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