保育士 VS AI~いえいえ、まだ当分、AIは保育士の代わりにはなれません
2020年には、AIは「過度な期待」」のピークを迎え、2021年以降は「幻滅期」に入っていくという評価もなされるようになりました。
(出典)
ガートナー、「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2020年」を発表https://www.gartner.com/jp/newsroom/press-releases/pr-20200819
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「幻滅期」を越えた人工知能(AI)の今後の可能性とは
https://enterprisezine.jp/article/detail/13603
一時期の「ブーム」も落ち着き、現在のAI、機械学習(の技法)で可能なソリューションの範囲が見えてきています。
科学史の用語を用いれば、人口知能の研究における「パラダイムシフト」の時代が収束し、そのパラダイムの中で細部についての研究が進んでいく「通常科学」の時代に移行したという言い方ができるでしょう。
今後、ほぼ見えてきた限界の範囲内で実際の課題解決に向けた実装と、少しでもその限界を引き上げるためのチューニングにリソースが向いていく時代ということになります。
「興奮」から「地道な努力」が意味を持つ「長い幕間劇の時代」になるということです。
現在の「AIのパラダイム」とは、ニューラルネットワークによる機械学習ということになります。この機械学習でできることとは、分類、予測で、加えて(分類の延長で)生成、(予測の延長で)戦略といった感じになります。
言葉の意味合いを広くとれば、子どもとの関わり方の発見もできるような感じもするかもしれません。
しかし、残念ながら、保育実践における子どもとの関わり方をアルゴリズムだけで発見するには、現在でも、決定的にデータが足りませんし、その不足を充足させるやり方も思いつきません。
そもそも、保育者は、朝の子ども登園の瞬間から、5感をフルに活かして、子どもの情報を意識的、無意識的に膨大に収集しています。しかし、これらの情報を機械学習「器」に「食わせる」ことのできるデジタルデータとして、収集できる方法が分かっていません。そもそも、ヒトである保育者が、どれくらいの情報(機械学習の分野では、特徴量という)を収集しているのか、まだ分かっていないのですから。
一方、人の多様性については、様々な研究が進み想像以上に広いということが分かってきています。単純な「人の遺伝子パターンの数」だけみても、人の遺伝子座数は 2万以上と言われており、そこから生まれる遺伝子型の多様性は天文学的数値になります。
実際の人口は約65億人で、完全に同じ遺伝子構成を持った個人は世界のどこにも存在しないし、過去にも存在しなかった確率が極めて高いでしょう(ただし一卵性の双生児は例外)。さらに、エピジェネティクスといって、遺伝子から実際にタンパク質や細胞がつくられていく過程で、環境状況(遺伝子発現が行われる周囲の水溶液、例えば子宮内の羊水の化学的組成など)のちがいによって、スイッチの入る遺伝子が異なるということも分かってきています。そのため、遺伝子型が同じでも、エピジェネティックな効果によって、個性に差が出ることも分かってきています。
このような複雑な子どもの「個性」を判別して、最適な関わり方を、現在の機械学習から導き出せるだけのデータを収集することは、当面無理だと言わざるを得ません。
今できることは、現時点で意識的に判別できる保育士の観察結果をデータとして、保育者が最大限活用できるよう、無意識を含めた膨大な情報処理の結果となる保育者の思考を支援する機械学習の仕組みを構築していくことだと考えています。