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再会した日の夕ごはん︰なすとピーマンの味噌炒め

緊急事態宣言が解かれる方向性が見えてきた。今日は昨日の延長で、ここで気を緩めずに自粛を続けることが大事なんだろうとは分かっているけれど、やっぱり気分は解放的になる。外に出たい・会いたい人に会いたいと思う気持ちを認めないわけにはいかない。

東京から関西に帰ってきて、ひとり暮らししていた時代にしょっちゅう訪れていた居酒屋がある。多いときは週6日。つまり、店の定休日を除いて毎日。店のお客さんは常連さんが半分以上。名前も素性も知らないが、気が知れたおっちゃんたち。「暑くなりましたね」「今日も仕事かい」と言葉を交わし、互いに心のどこかを触れ合わせていた。店長からは「りえ」と呼ばれている。当時、わたしは転職ほやほやで、一日一日が本当に濃密だった。今も思い出すとグッと胸にくる。適応するのにもがいていたあの頃。ほとほと参った日や達成感で満たされた日…一日の終わりに自分を慰め労う酒が、いつでも許される場所。今の家からも徒歩圏内なのでコロナ前は月1〜3回は訪れていたが、カウンターに座れば「今日も酒か」「水も飲んどきや」と水の入ったペットボトルとグラスが一緒に出てくる。娘が生まれたときには、まだおっぱいしか飲めない彼女を連れて顔見せにも行った。なんていうか、ほとんど家族なのです。

こんな状況になって訪れることもなくなっていたが、久しぶりに店に行ってみようと思う。コロナの影響をもろに受ける業界であり、大変な思いをしてるのは間違いない。そんな中でずっと不義理をしているようで、正直どんな顔で行けばいいのかと思う気持ちもあった。…あったのですが、いざ店を訪れてみると、なんら変わらず平常のように挨拶している自分と店の人たちなのでした。

店の、そして店をまわしている人たちの、どーんとした佇まいよ。経営的なダメージがないわけないし、マスクとか消毒スプレーとかの存在は異常事態の様相なのだけれど、コロナが流行るずーっと前から積み重ねてきた日々を引き続き淡々と重ねているその揺らがなさ。お客さんも、常としてやってくる。開店直後に訪れたので、知った顔ぶれではないのだが、きっと前からその時間に来ていたのであろう常連さんたち。誰かが来ても来なくても、繰り返し続けている日々の営み。そして久しぶりに訪れた客も、いつものように歓迎するふところ深さ。動じず、ずぶとくタフだ。

あぁ継続するってすごい。そしてやっぱり安心したし店の人たちと会えて純粋に嬉しいし。元気でいてくれてありがとうと思う。別にわたしのためじゃないのは承知の上で。

店を出て向かった業務スーパーでは、パクチーが手に入った。今日は素晴らしい日。

昨日のおかずの残りがあるので、献立のメインは味噌炒めをつくろうと考えていた。パクチーを使うあてはないのだけど、とりあえず取り分けて葉をちぎっておく。味噌炒めは広瀬さんが好きなおかず。彼につくってもらったこともあったっけ。なすとピーマンがあればできる。肉を入れずにつくることも多いが、今日は鶏むね肉とあわせてつくってみようと思う。

なすは油を吸うので、先にフライパンの中で油を絡めてから火をつけ炒め始める。焼きびたしのときもこの方法。ちょっとフタをして蒸し焼きにすれば、しっかり火が通る。広瀬さんはよく、なすを歯ごたえを残す感じに調理するけど、しっかり火の通ったなすのとろっとした食感で仕上げるのがわたしは好き。思い付いて、パクチーの茎も刻んで味噌に混ぜ込んでみた。にんにくは、レンジにかけると不思議とにんにく臭さが和らぎ、コクとやみつき感を出す役割を発揮してくれる。酒で味噌をのばしつつ柔らかくなったにんにくを潰して混ぜ合わせ、最後に加える。ちょっと味噌が焦げる感じに香ばしく炒められたら出来上がり。

来週からは、少しずつ街の活動も戻っていくのだろう。異常事態を乗り越えつつあるかもしれない予感や喜びを、店のカウンターでいつものおっちゃんたちや店の人たちと味わいたい。その日が待ち遠しいなと思う。きっともうすぐだ。

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