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好きな恋愛映画を語る Vol.11 パスト ライブス/再会

 こんばんは。お待たせしました(?)、「好きな恋愛映画を語る」シリーズ、実に2022年3月振りの更新です。二年前に映画を語るPodcastを開始してからは映画についての文章は年末の「202X年映画ベスト10」だけになっていましたが、久々にnoteに記事らしい記事を書きたい気持ちが湧いて来ました。今回、取り上げるのは今年公開の『パスト ライブス/再会』。次に書くならこれしかないと心に決めてたくらい、この二年間で最も好きな恋愛映画です。※ネタバレあり

Vol.11:『パスト ライブス/再会』(2024年)

 セリーヌ・ソン監督の長編デビュー作でありながらアカデミー賞主要2部門(作品賞、脚本賞)でノミネートした本作は、幼馴染の二人が24年振りにニューヨークで再会する7日間を描いた恋愛映画。

 12歳、ソウルに暮らす幼馴染の少女ナヨンと少年へソンは、お互いに好意を抱いていたが、ナヨンが海外移住することになり離れ離れに。それから12年後、24歳の二人はFacebookを通じて再会、ソウルとニューヨーク間でオンラインでのやり取りを重ねるが実際に会うことがないまま、再び別れてしまう。さらに12年後、36歳になり、アーサー(ジョン・マガロ)というアメリカ人と結婚しているノラ=ナヨンの英語名(グレタ・リー)に会うためにヘソン(ユ・テオ)がニューヨークを訪れる。

 この映画、予告編を観た時から「これは俺の映画だ!」と確信していましたが、映画を観てそれは確信に変わりました。「好きだった人を長い時間を経ても忘れられない男」というヘソンの設定に心当たりがあり過ぎたからです。自分は20代の頃、好きだった女性を10年間忘れられずに想い続ける体験をしました(その当時の情熱をベースに小説まで書きました)。想いが成就しないが故に彼女に固執してしまい時間が止まったように前に進めない感覚、過去に違う行動をしていたら二人の関係が違ったのではないかという後悔、そして、時間が経って環境も内面も変化した彼女と対面した時の気持ち、それらの全てに身に覚えがありました。
 ただ、この映画は成就しない恋愛のあるあるで終わるような映画ではなく、主に主人公ノラ視点での気持ちの揺れと行動によって、さらにその先を提示している点が素晴らしく、この映画を恋愛映画というジャンルを超えて人生全体を描いた特別な作品にしています。この部分については後述します。

 この映画の中心は24年振りのニューヨークでの再会ですが、ここでの描写に惹き付けられます。24年振りに再会する時のぎこちない会話(ハグに慣れていない韓国生まれのヘソンの受けの演技が良い)、地下鉄車内でバーを握る手の位置関係、特に素晴らしいのは二人の視線ですね。無言の状態で視線が合ったり、すれ違ったりで、お互いにどう想っているのかを探り合っているような場面なのですが、観てるこちらにもその意味がはっきりとは読み取れない絶妙なバランス(特にメリーゴーランド前の場面)。ノラに写真を撮られるヘソンの表情(いや、観光しに来たんじゃない感)。そして、二人の時間は終わりが来ることがわかっていることによる時間の濃密さ。バックに流れる浮遊感のあるシンセサウンドがさらに非日常感を高めます。

 そして、ノラの現在のパートナーであるアーサーと三人での時間。アーサーがこれまたノラのことを心底大事に想っている良い人です。旅の終わりが近づき、(漏れ出てはいたが)基本的には二人の関係が終わる前提で進む中、閉まっていたノラへの想いをギリギリのラインで伝える会話も切ないです。ノラの感情もはっきりとは読み取れないのも絶妙です。

  ラストのノラがヘソンを見送る場面。無言のまま歩き、UBERを待つ時間は実際は1、2分でありながら永遠にも感じられるような濃度です。そして、別れを告げて自宅に一人戻る途中で泣き出すノラ。それを迎えるアーサー。

 ノラがどのような気持ちだったかは観た人も解釈が分かれるかと思いますが、自分はノラはヘソンに再会して、自分の中にあったヘソンに対する好きな気持ちが再燃したのではないかと思います。ただ、ここでヘソンの元に戻るのは、自分が選択してきた人生を否定することになり選びたくはない。そこは迷いはないし、ブレないのだけども、それでも好きだった人、さらに子供の頃の思い出と自身のルーツ(韓国)とも繋がっている人との可能性を終わらせることはやはり痛みが伴う。だからこそ泣いてしまったのだと思いました。自分の過去との決別のような感覚でしょうか。12歳の場面で、ノラの母親がヘソンの母親から移住する理由を問われて「失うものがあるから、得られるものがある」と答えましたが、まさに人生における一つの真理のような話です。このビターな結末があるからこそ、この映画は「恋愛映画」を超えた人生に関する映画となっているんだと思います。そして、泣いている姿を初めて見たアーサーがノラに寄り添う場面(幼少期にノラに寄り添っていたのはヘソン)に未来を感じます。

 ちなみに、長い年月を掛けて二人の男女の関係を描いた映画としては、この「好きな恋愛映画を語る」シリーズ過去10記事中、3記事を割いて語っているリチャード・リンクレーター監督の『ビフォア〜』3部作が想起されます。『ビフォア〜』の3部作と1作品の今作という違いはありますが、長い時間が経過が描かれることで、「あの時、違う選択をしていれば」という「if」へ想いを巡らせたり、同じ人間でも年齢によって恋愛観・人生観に変化が現れるなどの共通点があるように思います。また、限られた時間の二人が観光地を歩き、視線や会話でお互いの想いを探るという部分も似ていますね。

 『パストライブス』における「if」に関しては、先ほどのバーの場面でヘソンが「もしあの時違う行動をしていたら」の例を出していますが、最大の分岐点は2人が24歳の時、どちらかが会いに行くということだったと思います(12歳の時に気持ちを伝えたとしてもあまり意味がなく、移住をしないという選択は子供にはできなかった)。同じような「if」想像は、自分も過去の恋愛において頭から煙が出るほど繰り返して来ましたが、最終的に「当時そのように行動しなかったので仕方がない」という身も蓋もない結論に到達します。逆に言うと、「その人がその人であるから当時その選択をした」とも言えます。この映画でどちらも会いに行かなかったのは、ノラは劇作家のキャリア作りを優先し、ヘソンは仕事の役に立つ中国語の勉強を優先したという理由がありました。ヘソン視点で言うと、自分のやりたいことを優先するようなノラだからノラのことが好きだと言うことです。ただ、ヘソンにとっての中国語がどれだけ彼のその後のキャリアに役に立ったかわからないので、あの時ニューヨークで英語を勉強しに行っても良かったのではと思わないでもないですが。もしかしたら「いかにも韓国人の男らしい」とノラに言われるようにヘソンは男の自分がキャリアより恋愛を優先するのは恥ずかしいという気持ちがあったかもしれません(映画の中で「何で自分が行かないといけないのか?そっちが来たらいい」というヘソンの台詞があった)。

 24歳のノラがヘソンにお薦めする映画が『エターナル・サンシャイン』であることなど、色々と考察しがいのある映画でありますが、長くなるので今回はここで止めめておきます。

とにかく、今年一番お勧めの恋愛映画(恋愛だけでもないが)は『パスト ライブス/再会』です!

 尚、この映画のBlu-Rayは2024年10月2日に発売しています。自分は幸運にもBlu-Ray予約した際、この映画の中で度々登場する言葉『イニョン=韓国語で「縁」や「運命」』をテーマにしたセリーヌ・ソン監督監修のZineが当選しました!

 公開当時にPodcast『ヤンパチーノのシネマビーツ』で語った回はこちら。語り口に当時の感動が滲み出ています。

 私自身の忘れられない人について書いた「私小説的」恋愛小説はこちら。




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