38歳のクリスマスイブイブに突如降臨した激しいプリンセス願望
前回(※記事はこちら)から引き続き去年末のあれやこれやを振り返る2024年始、この世の不運を全部凝縮したような未曽有のディザスターに、俺も世間も感情スプリンクラー状態だ。とかく出来ることは寄付と祈祷のみであることは理解しつつも、今すぐダンプで被災地に乗り込んで何かしたいもどかしさを胸に抱え、そうは言うても俺らの日常はここにあってここで生きることでしか誰にも何もしてあげられない現実を、モザイクが貫通してしまうほどの眼力で見つめざるを得ず、もう俺らは俺らで一心不乱に去年を振り返るから、お前らもお前らでどうか生きていてくれ頼むと切に願うばかりだ。
【2023年12月】
・12月23日・
23日のイブイブもしっかり通院してどっさり薬を処方してもらった。エビちゃん(※主治医:過去エピソードはこちら)はクリスマスそのものが好きではないらしく、つーかイブってなんだよアダムの妻かよ知らねぇよ(よく知ってんじゃん)早く総菜半額にしてくれよ街中が赤ばっかでうるせぇんだよどうせコカ・コーラの陰謀だろうが赤なんてよーとカルテに喧嘩を売っていた。
帰りに調剤薬局へ寄ると長蛇の列で、いや待っていくら何でもプレゼントに薬っつーのはセンスが鋭角すぎんかヘルジャパン!とハンドベルを振りかざそうとしたら、“お待たせして申し訳ございませんっっ!!!年末最後の診察日が今日という病院が多くっっ!!!最低でも1時間はっっ!!!お待ちいただいておりまっっ…申し訳ございませんっっ!!!”と薬剤師さんが地面に額が付きそうなほどディープな謝罪をしてきたので逆に申し訳なく、溜飲を海底2万マイルまで下げて1時間半ほど潜水待機し、見事エビちゃんサンタの処方箋をもって薬というプレゼントを授与された、よい子の俺であった。
主食は薬ですと言わんばかりの量を引っ提げ、ホットな恋人たちやクールなジャパンを観に来た外国人たちがひしめく新宿の街を彷徨うルークワームな中年女子。横断歩道で2歳くらいの女の子をベビーカーに乗せたパパとママが隣に並ぶ。
パパ「〇〇ちゃんはクリスマスが来たらお姉さんになるねぇ~!」
ママ「じゃあもうオムツは卒業かな~?パンツはけるかな~?できるかな~?」
女の子「はけるー!できるー!はけるー!」
パパ「すごいすごい!じゃあ帰りにプリンセスパンツ買いに行こうね~!」
ママ「わ~!お姉さんパンツだ~!えらいね~!すごいね~!」
女の子「すごいねーはけるねーおねえさんなるねー!」
パパ「そうだよすごいね~お姉さんパンツだよ~!〇〇ちゃんプリンセスだよ~!」
その時の俺の表情をなんと形容すればいいだろうか。
絶望と羨望が渦巻くカオスな世界に裸一貫投げ込まれた中年の国のアリスのような気持ち。お茶会に出てくるのは最早ウイスキーのロック一択だが、登場人物は皆プリンセスパンツを着用し、お姉さんであることに何の疑念も抱いていない。嘘だ!俺がプリンセスだって誰も教えてくれなかったじゃないか!じゃあ俺が履いてるこのパンツもお姉さんパンツ、プリンセスパンツだって言うのかよ!なぁおい教えてくれよ!なぁ親父!なぁおふくろぉぉぉ!
こんな風に愛されたかった。オムツじゃなくなることを、こんなにも大事なセレモニーとして、扱われたかった。妹がいなくても、お姉さんだねすごいねって、褒めてもらいたかった。プリンセスって、思ってほしかった。
泣叫恨吐暴!泣叫恨吐暴!泣叫恨吐暴!泣叫恨吐暴!泣叫恨吐暴!
38歳のクリスマスイブイブに突如降臨した激しいプリンセス願望に慟哭する横断歩道のド真ん中で、揺れる赤信号に一瞥をくれて喚き倒す「コカ・コーラの陰謀色~~~~~~っ!!!!」
・12月24日・
イブは姪(妹Bの娘)の誕生日ということで、コキンちゃん(※ドキンちゃんの妹)ラバーズの姪にコキンちゃんがあしらわれたキュート極まりない服を贈呈してさし上げた。イブに生まれるとクリスマスと一緒にされて可哀想…とは露ほども思わない、むしろ確実に祝ってもらえるだけ勝ち確だ。夜、早速妹Bから姪の写真が届き、そこには“コキンちゃんのパジャマとっても気に入ったみたいで喜んで着てたよ~!”とメッセージが添えられてあった。
いやそれパジャマちゃうから(泣)!!!めっちゃおしゃれ着やから(号泣)!!!けっこう高かったんやから(大号泣)!!!
ああサイレンナイ、おおホーリーナイ、イブもまた屈辱にまみれながらの就寝となった。
・12月29日・
なんだかんだクリぼっちの侘しさも飼い慣らし、もう何だってひとりでできるもん!(まいちゃんフォーエバー!)と包丁で大根を両断しながらおせちの準備に入る、だって正月もひとりだもん!年末どころか年始だって何の予定もないんだもん!ひとりでお留守番できるもん!
そんな強がりが響いたのか夜更け過ぎ、どうにもこうにも眠れず布団にもいられなくなって、たまらず家を飛び出した。
行く当てはひとつしかない。年末恒例の発作となりつつある(※去年記事参照)三峰神社だ。
午前6時30分、ギンギンに冴えた眼を携え、レッツ埼玉が誇る秘境・秩父へゴー!
一旦地元の駅から池袋へ移動し、その後特急列車とバスを乗り継いだらお目当ての神社に到着だ。
ファミリーにここぞとばかりにお守りを強請られたお陰で財布だけは軽かったが、瞼と体はことごとく重く、“中年が長時間移動するとふくらはぎが太ももより肥大する現象・通称:むくみ”をまざまざと見せつけた俺は案の定、除夜の鐘が鳴り終わるまで布団とよろしくやっていた。
無論神社では時間の許す限り祈祷したので、年明け早々念願のプリンセスになった俺は、きっと誇らしい気持ちでお姉さんパンツを履いて新宿を闊歩していることだろう。
《2023年・完》