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他者と協働するからこそ育まれる「未来を生き抜くチカラ」〜世田谷区立世田谷中学校特別支援学級の実践から①〜

こんにちは。F.ラボアンバサダーの高村ミチカです。小学校教員を11年経験後、現在はフリーランスライター/編集として活動をしています。元教員だからこそ、学校と学校の外側をつなぐ学びの結び目のような存在でありたい。「本物の学び」を引き出すお手伝いをしたい。そんな思いで、F.ラボアンバサダーを務めています。

F.ラボは現在、小中高大や特別支援学級の他、フリースクールや塾など20以上の教育機関と連携して、50以上のワークショップや授業プログラムを実施中です。

今回お邪魔したのは、世田谷区立世田谷中学校。
特別支援学級での実践を紹介します。

インタビュー映像をつくろう


授業の目的

・構成、撮影、編集など映像制作の基本を学ぶ

授業の目標
・構図や編集のポイントを理解し、ちょっとプロっぽい映像の作り方を理解する

時間数
2コマ
※年間の自立活動を貫いた長期PBLの中に位置付け

対象
中1〜中3

映像制作物
(短期)
・⚪︎⚪︎さんに聞く、行動制限が緩やかになった今年の夏の思い出(1分程度)
(長期)
・自立活動の取組を振り返って、「自分のトリセツ」について映像にまとめる

世田谷中学校の特別支援学級では、年間の自立活動を貫いた長期PBLで映像制作に取り組んでいます。今回は、そのセットアップ(前準備)として「インタビュー映像をつくろう」の活動に取り組みました。インタビュー映像の制作を通して、構成、撮影、編集などインタビューの基本の流れを一通り経験することが目的です。

当日の流れ
・インタビュー映像の進め方やコツのインプット
・質問を整理して、撮影前の構成をする
・実際に撮影をする(役割を交代しながら全員が体験)

〜後日〜

・撮影後の構成
・編集

主観?客観? 構図の決め方1つで、受け取り方がガラッと変わる

まずは、インタビュー映像に関するインプット。

「インタビューってどんなイメージ?」
そう問いかけながら、カントクは4つの場面を見せます。

「トーク番組かな?」
「街頭インタビューっぽいな」
「正面を向いていると、面接みたい」

それぞれの場面から受け取る印象を口々に話す子どもたち。目線の違いに着目するよう、カントクが伝えると、ある子どもが、

「2人称と3人称の違いみたいな感じかなぁ」

と、つぶやきました。

確かに、正面を見て話しているこちらの構図は、「あなた」に向かって話しかけている二人称の視点

斜めに目線を向けているこちらの構図は、インタビュアーの存在を感じさせ、三人称の視点と言えそうです。

同じように一人の人が話している場面でも、前者は主観的な印象を与え、後者は客観的な印象を与えます。

構図の決め方一つで、受け取り方がガラッと変わる。そのことを子どもたちが体感できた瞬間でした。

三脚を立てる、ピンマイクを付ける、構成を考える……映像制作は協働の場面だらけ


三脚の使い方やピンマイクの付け方、機材の配置など一通りレクチャーをした後、実際に機材を配置して撮影の練習。インタビューを受けるゲスト、ゲストに話を聞くインタビュアー、構図を決めて撮影をするカメラマンの3つの役割を入れ替えながら、グループ全員が体験できるようにします。

グループみんなで使い方を確かめる


ゲストにピンマイクを付けるのもインタビュアーの仕事


ゲストとインタビュアーが向かい合い、カメラマンは斜めから

3人1グループで活動をするので、自然と協働の場面が生まれるのがFilm Educationの良いところ。機材の使い方をグループの仲間と確かめ合いながら撮影の準備を進めていきます。

撮影前の構成を考える場面では、付箋に質問項目を書き出して、どんな順番でインタビューをするのかグループで話し合います。
「この質問はどう?」
「こっちを先に聞いたほうがいいんじゃないかな」
そんなやり取りをしながら、話し合う子どもたち。

グループで何か1つのことを決める時には、「自分のこうしたい」だけを押し通していたらうまくいきません。「相手がどうしたいか」を汲み取りながら、話し合いを進めていくことが必要です。中には、他者とのコミュニケーションが苦手な子どももいるでしょう。しかしだからこそ、こういった経験を通して、「生き抜くチカラ」を獲得していくことが大切なのです。

「これでいい?」グループで合意形成を図る姿も

「協働作業ができる」ことは、F.ラボが大事にしている「映像制作で身につく未来を生き抜く5つのチカラ」の一つでもあります。仲間とゴールを共有し、スケジューリングや役割分担をしながら活動を進めていく。このことは、まさに社会で求められる力です。

Film Educationでは、仲間との映像制作を主体的に楽しみながら没頭していく中で、1 人ひとりが目的意識を持って活動に取り組む「協働作業のチカラ」を自然に身につけることができます。

F.ラボが考える「映像制作で身につく5つのチカラ」


「できない」から「やらない」でやめない
どうやったらみんなでできるかを考える


子どもたちがインタビューの撮影している中で、印象に残った場面があります。

あるグループで、ゲストがインタビュー中に「質問の内容を忘れてしまう」という悩みが出ました。

音声だけだと分からなくなってしまう……。じゃぁどうしたらいいのか。

そこで編み出したのが、タブレットに質問項目を表示させるという方法です。

質問されたことが分かるように、視覚的にゲストに提示

視覚的に表示することで、音声での処理が苦手な子どもだけではなく、誰もがインタビューに答えやすくなります。

「できない」から「やらない」ではなく、どうやったらできるのだろうと考えて工夫してみる。誰もがやりやすい方法はないかを考えてみる。それは、まさにユニバーサルデザインの考え方です。

そして、そういった工夫ができるのも映像制作の良さではないでしょうか。映像は、言語表現と非言語表現の掛け合わせでできています。だからこそ、様々な表現の可能性があります。どうやったら「伝わる」のかの工夫の余地があるのです。

みんな当たり前に「協働」してるし、一生懸命取り組んでるし、楽しんでいる!
それがFilmEducation


FilmEducationを通して、子どもたちの「他者と敬意を持って関わり役割を持ち協働する力」を育むことにつながったと話してくれたのは、世田谷中学校特別支援学級の担任の先生。特に今回の授業では、子どもたちの『協働』する姿に成長を感じたと言います。

「今回の授業で1番嬉しかったのは、当たり前に子どもたちが3人組で役割を回し、映像制作をしていたことです。あれ??あれ??みんな当たり前に『協働』してるし、一生懸命取り組んでるし、楽しんでいる!と正直驚きました。

3年前に学級を立ち上げた当初は、『協働』が非常に高いハードルのように感じていました。他者に興味関心を示さず、どうしても『自分』が強かった生徒たちが、他者を気遣い、役割を回しながら協働する姿は、当時は想像できませんでした。

日々の積み重ねと成長で培われたコミュニケーションの素地をさらにリープさせてくれたのが、Film Educationだと感じています」

子どもたちの感想からも、純粋に活動を楽しんでいることが伝わります。プロならではの専門知識とスキルが、子どもたちのワクワクを刺激し、主体性を引き出すことができるのだと改めて感じました。

授業を受けた子どもたちの感想
・すごく楽しくていい経験になりました。編集も楽しみです。またこのような時間をとってほしいと思いました

・最初はうまくいかなかったが、最終的に面白くできたらか、「また撮ろう」と思いました

・ピンマイクってこんなに綺麗に撮れるんだ。構図とかもビシッと決めるとカッコよくとれる。プロっぽく専門家の知識が少しでもあると変わるものがあるなと思った


「自分のトリセツをつくる」というゴールに向かって


世田谷中学校の特別支援学級では、年間の自立活動を貫いた長期PBLで映像制作に取り組んでいます。

自立活動の取り組み全ての記録を残し、それを個々の生徒が自分のポートフォリオとしてまとめる活動です。1年間の取り組みを振り返り、見てほしいところや頑張ったところなどを整理して、「自分のトリセツ」として表現をします。

今回の「インタビュー映像をつくろう」の授業は、その第一歩。今後の展開が楽しみです!

また、引き続きレポートをしていきますので、お楽しみに〜。


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