映像制作を通して育まれた、複数のメンバーとコミュニケーションを取りながら作業をする力
はじめに
前回の記事では、大島高校の3年生が取り組んだドキュメンタリー映像制作の授業プログラムの概要と、授業の流れをご紹介しました。
「もっと島への愛着を持ってほしい」
「自信を持って郷土を旅立てるようになってほしい」
そんな先生方の思いからスタートした伊豆大島の魅力を伝えるドキュメンタリー映像制作の活動。しかし、映像制作を通して育まれたのは、島への愛着だけではありません。
授業後に行ったアンケートでは、子どもたちにどんな力が身に付いたか5段階で評価をしてもらっています。その中でも評価が高かったのが、「複数のメンバーとコミュニケーションを取りながら作業をする力」。「身に付いた」「よく身に付いた」を合わせると81%に上り、多くの生徒が成長を実感していることが分かります。
今回の記事では、生徒たちが映像制作を通じて育まれた「複数のメンバーとコミュニケーションを取りながら作業をする力」に焦点を当て、レポートしていきます。
映像制作には協働作業が必須! 役割分担を明確に
映像制作は、制作過程が複雑で、作業量も処理する情報量も多く、一人で作り上げることは難しいため、明確なゴールの共有、スケジューリングと役割分担などチームでの「協働作業」が必須です。
まずはどういう作品を作ろうか、取材先はどこにしようかなど、グループで方向性を話し合い、ゴールを共有します。このゴールが協働作業を進める上での土台となります。ゴールが決まったら、どういうスケジュールで作るのか作業工程を設計していきます。
大島高校では、基本3人で1グループを作り、役割分担をしました。大きく分けて「スケジュールを管理する人」「外部との連絡を担当する人」「データを管理する人」の3つの役割です。その他、撮影や編集を行う際には、作業ごとに細かい役割分担を行いました。
この「役割」を決めるというのが、教育実践において特に重要なポイントです。役割がないと、作業を他のメンバーに任せて自分は何もしない、いわゆる「フリーライダー」が出てくる可能性があります。チームでの作業をスムーズに進めるためには、それぞれが自分の担当する役割を理解し責任を持つことが大切なのです。
編集で大切なのは、1つに「決める」こと
撮影や編集作業は役割分担をしますが、それぞれが与えられた役割をこなせばいいというわけではありません。グループ内で定期的にプレビュー(試写)を行い、クリエイティブの判断をすることが必要です。
大島高校でも、
「インタビュー映像をどの順番で並べたらいいのだろう」
「どこを強調して、どこを削る?」
「このテロップをもっと目立たせたい」
「BGMを変えたらどうなるだろう」
と、プレビューをすると、いろんな意見が出てきました。しかし、意見を出し合って終わりでは意味がありません。編集で大切なのは「決める」こと。
「決める」時には、グループで最初に決めたゴールが拠り所になりますが、クリエイティブなものなので、正解はありません。意見が割れたり、衝突が起きることもあるでしょう。しかし、それを乗り越えて一つの作品を完成させたとき、他では得がたい達成感を味わうことができるのです。中には、「最後までやりきった時の達成感をこれからも大事にしていきたい」と振り返る生徒もいました。
また、話し合いを通じて、「どのような映像を入れたいかや、強調したいお店の見どころなど、どのように際立たせるかを考えながら作り、それが上手く表現できた」と実感した生徒もいたようです。
社会に出ても役立つ、スケジュール管理のスキル
映像制作の過程には、苦労もたくさんあります。
生徒が特に苦戦していたのが、「スケジュール管理」です。
最初の撮影では素材が足りずに、グループ全員で頭を抱えるような場面も。足りない素材は、取材先に依頼をして後日送ってもらうようにしました。
この経験を通して、生徒たちはスケジュール管理の重要性を身をもって学んだようです。
「スケジュール管理は、早めに!きっちり!正確性をもって!コミュニケーションを取りながら共有も忘れずに!」と、授業後のアンケートに書いている生徒もいました。
他者と協働作業をする上で、スケジュール通りに進まないケースも多くあります。スケジュールを立てては見直し、またスケジュールを立てるといった「スケジューリング」が繰り返されます。このように全体の進行を管理する力は、社会人としても必要なスキルでもあります。今回の経験は、生徒たちの将来に大いに役立つことでしょう。
おわりに
生徒自身が、「複数のメンバーとコミュニケーションを取りながら作業をする力」を実感することができた、ドキュメンタリー映像制作のプログラム。チームで協力し合いながら課題を乗り越える中で、生徒たちは未来を生き抜く力を身につけることができたのではないでしょうか。
次回の記事では、プログラムを実践した先生方の声から授業を振り返ります。
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