Voyage、高尾山へ
令和六年から早起きの練習を始めた。0時半までに寝て6時32分に起きて8時前にアパートを出る。なか卯で卵かけご飯を食べて、コワーキングスペースで執筆をはじめるのが8時半。と言っても、まだ1日もできていない。20〜30分くらい遅刻。会社員時代は8時に起きて9時過ぎにアパートを出ていた。これが染みついてしまっている。2023年はデビュー著書『WBC 球春のマイアミ』の執筆に1年を捧げ長い間、山から遠ざかっていた。
1月15日、月曜。この1週間、雲ひとつない空だったが今日はどんより。新宿は新しい世界をはじめようとしている。会社に向かう人並みをかき分け、まいばすけっとでスポーツドリンク73円を買う。前は55円だった。なか卯で卵かけご飯290円。前は250円だった。平成最後の年に高尾山に登ったとき、新宿から高尾山口までの京王線は381円だった。1円ってなんやねんって感じだが、今は430円。49円値上げってなんやねんって感じだが、それでも往復1,000円以下。税金とのデュエルに苦戦するフリーランスの物書きにとって、ありがたい。
キツキツの登山ウェア。何もしていなくても苦しい。体重は増えたが収入は減った。時間はあるがお金はない。モード学園タワーの向こうのコワーキングスペースに引っ張られそうになる。山など登っている場合か。前は悠々と向かえたが、自由というプレッシャーが襲う。
「僕達は幸せになるためこの旅路を行くんだ」
浜崎あゆみの昔の歌詞が浮かんだ。新宿駅のトイレで歯を磨き、缶コーヒーのBOSSを買って九時二分発の特急で高尾山口へ。車内で中川右介さんの『角川映画』の文庫本を読む。
駅を出ると朝日が再会の挨拶。週始めの月曜日。登山者は少ないと思いきや人で溢れている。18回も来ているのに高尾山を舐めていた。高齢化やコロナが背中を押したアウトドアブームで登山者は増えているのだろう。
10回以上は登っている稲荷山コース。単調な道だが、それが登山。復帰一発目は稲荷山コースしか考えられない。十時十四分スタート。
陽の当たらない場所では、雪や霜が陰日向に咲いている。山に来てよかった。200m登っただけで脚が張ってくる。8年前は1日4往復の1day 4summitをやっても疲れなかった。あの頃を懐かしんでいる場合ではない。体力はなくてもスピードは染みついている。登山者を何人も追い越し十一時七分頂上へ。57分。1時間を切っているから悪くない。この距離だから誤魔化しがきく。山頂も人で賑わい、富士山は雲の中。景信山まで行くと2時間。今日は退散。山頂ソフトクリームもお預け。3月にとっておこう。
心なしか、人工物が増えた気がする。高齢化と登山者の増加。怪我人も増えるだろう。実際、年配の女性が転んでいた。高尾山ほど登山者のことを考えている山はない。登山道だって管理者が整備してくれた人工物。ただし、できるだけ避けて通りたい。自然を噛み締めたい。登りにくいが、岩場や土の部分を踏み締める。
下りは3号路から2号路。平日でも登山者でいっぱいの高尾山で、最も人の影が少ない。あるのは小鳥の鳴き声と木漏れ日。それが高尾山であり、山の贅沢。正午ちょうどに下山。これから下山は稲荷山コースではなく、このルート。変わりゆく高尾山。だからこそ、新たな高尾山を発見できる。