見出し画像

SaaSのプライシング戦略:他社との価格競争には参入しない

僕は、価格競争を続けるBtoBプロダクトは長く継続することは難しいと思っています。

SaaSプロダクトをはじめとするBtoBプロダクトにとってプライシング戦略はACV(顧客毎の年間平均契約金額)を引き上げる為に最も大切な戦略の1つですが、僕が自身のSaaSプロダクトのACVを2018年1年間で数倍まで向上させることができた大きな要因は他社との価格競争に参加しないことでした。

僕が運営するSaaSプロダクトの1つは、競合他社よりも5〜10倍の価格で販売しておりますが、他社との価格競争に乗らずともコンペでの勝率は高く推移しており、且つ解約率も一定水準を維持しています。

競合他社の価格や値引きキャンペーンはもちろんウォッチするべきですが、一番大切なのはそれだけを理由に自身の事業の価格を変動させないことだと僕は考えています。

そもそも、SaaSの適正価格とは?

価格は、そのプロダクトが解決する課題や予算の規模に応じて決まります。

仮に、現場担当者が持つ課題を解決する為のプロダクトであれば、価格はその担当者レベルが持つ予算感や彼らの人件費が価格の上限になりますし、経営レベルの課題を解決する為のプロダクトであれば、経営陣の持つ大きな予算や、彼らの人件費が上限になります。

「誰の(人件費)」「なにを(予算感や施策規模)」解決するのかを定義することで、自ずと適切な価格レンジが算出されます。

仮に、マーケター1人分の業務の入れ替えであればマーケターの人件費に相当する月額50万以下となりますし、数百人の営業人員を対象とするSalesforceであれば、仮に彼らに手動の営業管理をさせるという超非効率な業務コストとの入れ替えになるので年間数千万円クラスの金額になります。

大切なのは、プロダクトに流れるお金は一体どこからきているのかを定義し価格を設定するということです。
※ソースオブビジネス(SOB / Source Of Business)と言われる概念です。詳細は下記のDigiday記事内の図解がとても分かりやすいです。

価格競争に陥りやすいケースとは?

リリース当初は上記のような考え方で価格を設定したとしても、下記のような状態の組織だと事業を推進する中で、他社との価格競争に陥りやすくなります。

1. 受注金額やCAC(顧客獲得単価)が重要視されすぎている
営業文化が強すぎたり受注目標単体でマネジメントをする組織では、新規営業メンバーが新規アカウントを獲得すること自体が過度に評価され、LTVへの意識が低下するケースがあります。結果的に、「他社が安いから売れない」という営業の強い主張が組織の意見にすり替わってしまいます。

2. 価格設定の意図やロジックが組織全体に共有されていない
プロダクトがどのお金を取りに行くのか、という背景情報が営業やCSM(カスタマーサクセス)に明確に共有されていない場合、多くの現場メンバーは自分の感覚や顧客からのフィードバックによって価格ロジックを組み立てるので、組織内の価格への意識にズレが発生してしまいます。

3. セールス・マーケティングの訴求内容がターゲット層とズレている
仮に経営課題にアプローチしたいプロダクトだとしても、営業資料やマーケティングメッセージが顧客に与える印象が経営層にマッチしない機能訴求の内容になっている場合、「現場で検討してください」と言われてしまい現場に営業すると「予算より高い」と言われてしまいます。顧客とプロダクト提供側でのポジショニングの意識が乖離することで、想定よりも安価な価格へ値下げ交渉が発生しやすくなります。

4. 開発側とビジネス側の歩調がズレており、CSM(カスタマーサクセス)がプロダクトへの信頼を失っている
開発スピードが遅い/新規開発アイテムが顧客の課題解決に直結していない、等の状況があると、CSMが顧客の成功に伴走できなくなり、プロダクトへの信頼が低下します。結果的に、提供価格への不信感が生まれてしまいます。

上記のように、プロダクトの提供価値に関する認識が組織内や対顧客との会話の中でズレやすい状況だと、「よし、他社に合わせて価格を下げよう」という意思決定をしやすくなってしまいます。

なぜ価格競争が良くないのか?

BtoBプロダクトは、"安いから買う"のではなく、"課題解決ができるから買う"という状況を作り出さなければいけません。

仮に、「他社よりも安いです」が営業のキラーフレーズになっていたり、競合他社の値下げキャンペーンで社内がザワつくようであれば、"安いから買ってもらえる"という意識が強い証拠だと僕は思っています。

価格を武器にSaaSを売ることが良くない理由は大きく3点あります。

1. 競合に簡単にリプレイスされやすい
顧客は"他社よりも安い"ことが理由で購入の決断をしているので、仮に他の競合他社がより安価なプランをリリースした際は、同じ理由でリプレイスされる可能性が高いです。結果的に、LTVの悪化に直結します。

2. 顧客のコミットがさがる
価格を最大の決め手として導入を決意する場合、"課題を解決してくれる"という意識が強くならないケースがあります。結果的に、顧客側のプロダクトを利用するコミットが上がりきらず、解約に繋がりやすくなります。

3. CAC優先の事業運営になり、利益を出しづらい体質になる
価格競争に参入するということは、CACが下がる分、獲得件数を増やす必要があるということになります。獲得件数を増やし続けられるのであれば問題はありませんが、売上増加がアカウントの件数拡大に依存する構造になりやすく、セールス・マーケティング費用が利益を圧迫し続けることになります。

言うまでもなく、SaaSの事業拡大の肝はACVの向上、LTVの最大化です。

LTVを引き上げるシナリオの一環としての他社との価格競争であれば全く問題はありませんが、競合他社に足並みを揃える為の価格競争の場合は、高い確率でLTVが損なわれることになると思います。

今一度、価格はどうあるべきか、をプロダクトのSOBから見返すことで、新たな気付きがあるかもしれません。

Twitterやってます。プロダクト事業のリアルな姿を毎日発信していますので、ご興味あれば是非ご覧ください。


いいなと思ったら応援しよう!