小学生のころの僕は、自称「情報屋」
小学生のころ、自分のことを「情報屋」だと思っていた。
今思い出すと恥ずかしい。まだ中学生になっていないのに、中二病が発症していたのだ。
この「情報屋」とは何かというと、〇〇ちゃんは〇〇くんのことが好きであるといった、同級生の恋愛事情をすべて把握しているつもりでいるということだ。
「あぁ、あの子の好きな人ね、知ってるよ」と、自慢げに話す僕を見て、友だちはどのように思っていたのだろうか。
どのように情報を集めていたかというと、単純に友だちに聞くということだけであった。
「〇〇ちゃんの好きな人って…?へぇ、そうなんだ、別に興味はないけどねぇ、一応聞いとこうかなって」
恋愛とか僕は無関心ですけどねというスタンスを保ちながら、必死に頭のメモ帳に記憶を残していた。
うおぉ、知らない子のデータを手に入れたぞ!と盛り上がっては、俺ってほんと詳しいぜと情報屋という役職を誇っていた。
この時点で、情報屋もくそもない。誰かが知ってる情報を聞いて、ただ蓄積しているだけだ。
結局のところ、周りはわざわざ言わないだけですでに知っているし、なんなら僕のところに回ってくる情報はワンテンポ遅いくらいだ。
ある日、小学校からの帰り道に、普段あまり話さない女の子とたまたま帰るタイミングが一緒になった。
女の子の前でカッコつけたい僕は、情報屋であることを語った。
「知らないと思うけど、〇〇くんは〇〇ちゃんが好きなんだよ、しかもね、その〇〇ちゃんは〇〇くんが好きなんだよ、複雑だよね」
「うん、そうだよね、複雑だよねぇ」
あれ?マル秘な情報を言ってあげたのに、全然驚かないじゃないかと不思議に思った。せっかく情報をだしてあげたのに、話に食いついてくれなくては困る。
すると女の子が、そういえばさと咄嗟に思いついたかのように話しかけてきた。
「矢間田くんは好きな人いないの?」
「え?おれ?」
「そうだよ、君。絶対秘密にするからさ、こっそり教えてよ」
秘密という言葉は、絶対に守られるものだと思っていた。他の人から情報を集めるときには簡単に恋愛事情が聞けるのに、自分の話は流れていかないと思っている。
「秘密だよ?俺はね、ゆうこちゃんが好き」
「えぇ~!!意外だね!でもお似合いだよ!!」
後日、僕がゆうこちゃんのことが好きであるという情報をみんなが知っていた。秘密が共有されることなど、小学生の間では当たり前である。いじられ慣れていない僕は顔が真っ赤になった。
一緒に帰った女の子が「情報屋」であることを知らなかった僕は、敗北の気持ちとともに次の日から「情報屋」を失職したのであった。