姿勢 座り姿勢その2 座法
座り姿勢は、大きく床座と椅子座に分けられます。
日本では数十年前まで、床上を直接生活面としており、座ることすなわち床座でした。
「床座」という言葉自体、椅子文化が導入された明治期以降に、椅子座と区別するために作られた用語です。
床座はヨーロッパ文明圏とシナ文明圏を除く、世界各地に共通した座り方ですが、日本においては履物を脱いで家の床上に上がる習慣とセットに、独自の床座文化が形成されてきました。
正座、胡座、安座、半安座、跪座、踵座、箕座、長座、楽座、合蹠座、結跏趺坐、半跏趺座、割座、鳶足、蹲踞、長跪、片膝立、横座り、女座り、体操座り、うんこ座り、ヤンキー座り・・・などなど
ひと口に床座と言っても、座り方の種類はたくさんあります。
正座が正しい座り方だと言う人もいますし、いや、胡座こそカラダに良い座り姿勢だ、と言う人もいます。
しかし前回書いたように、座る事自体がヒトにとって不自然な姿勢である以上、大手を振って勧められる決定的な正しい座り方は存在しない、と言うのが正解でしょう。
自分のカラダの特徴やTPOに応じて、各座法を使い分ければ良いのですが、一つ言えるのは、同じ座り方のままで長時間過ごす事は避けた方が賢明だ、という事です。
そして、(うんこ座り等でなく)お尻を床につけて着座する場合は、坐骨の前側にある、坐骨枝と言うところで体重を支えると、骨格的に上半身の姿勢を楽にできます。
正座では両足の踵がちょうど坐骨枝をサポートする形になりますが、胡座などでは坐骨の後ろ側にある坐骨結節に体重を乗せてしまいがちになるため、仏教の伝統的座法では両足を結跏趺坐の形に組むことで、重心が後ろへ倒れていかないようにしています。
結跏趺坐は、両手両足の位置がカラダの重心である骨盤の中心と重なる、非常に安定した座姿勢ですが、足関節の柔軟性とある程度の鍛錬を要します。
慣れないうちは胡座や半跏趺座で、座布団やクッションなどを坐骨の下に当てて、重心が前側に来るように調整すると良いでしょう。
一方古代エジプト文明期に発明され、その後王権の象徴としてヨーロッパやシナに広まっていった椅子ですが、庶民の間で広く使われるようになったのは、大分時代が下った産業革命時のイギリスからでした。
工場労働者育成のため学校制度を整備したのがきっかけで、狭い教室内に、数十人の生徒を長時間留まらせておく目的のために、椅子という道具が採用されたのです。
日本では、椅子はすでに飛鳥時代にはシナ大陸から入ってきていましたが、明治の文明開化で役場や学校に取り入れられるまでの永らくの間、椅子に座る習慣はありませんでした。
明治政府はヨーロッパ式教育法に倣い、殖産興業のための労働者育成を図りましたが、帯締めの和服と背もたれのある椅子では相性が悪いこともあって、一般家庭に椅子が普及したのは、洋服や洋間が一般化した1970年代以降のことでした。
それから約50年、日本人の姿勢は洋服や椅子での生活とともに、大幅に崩れていきました。
毎日何時間も椅子に座って勉強や仕事に励むことで、顔や首を前に突き出し、じっと動かさないでいる下半身の筋力低下や血行不良を招き続けてきた結果です。
最近では、GoogleやFacebookなど、米国シリコンバレーの企業を皮切りに、ヨーロッパやオーストラリアのオフィスなどでも、スタンディングワークが一般的になってきました。
デンマークやスウェーデンでは、スタンディングワーク用の上下昇降可能な机が、オフィスデスク総販売台数の9割を超えているそうです。
日本でも楽天が採用している他、アイリスオーヤマが座り事務作業を禁止するなど、立ち机を導入する企業は増えつつあります。
なぜ、ヒトは椅子に座るのか?
そもそも椅子は必要なのか?
椅子の正しい座り方について語る前に、ファラオ以外誰も椅子に座ることなどなかった5000年前に立ち帰って考えるべきなのではないか?と思われます。
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