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#島木赤彦
私の好きな短歌、その5
夕まぐれ音をひそめて帰り来し子どもは雨に濡(ぬ)れてをるかも
島木赤彦、歌集『切日』より(『日本の詩歌 第6巻』中央公論社 p20』)。
「赤罌粟の花」中の一首。罌粟が咲くのは初夏という。なぜ子どもが音をひそめて帰ってきたのかは分からないが、子どもは濡れている。情景は明白だが、すべてが明らかではないという魅力がある。子供は雨に濡れてしょんぼりしているのか、あるいは何かに夢中で雨に濡れることを
私の好きな短歌、その6
枕べの障子一日曇りたり眼をあげてをりをり見るも
島木赤彦、歌集『氷魚』より(『日本の詩歌 第6巻』中央公論社 p29』)。
「病床」中の一連。この次の歌から、季節は冬とわかる。何もすることがない病床で、視線だけが部屋の中をさまよい、ときおり障子を見ている。それだけの歌だが、写生であるがために、実感がこもっている。「一日」によって時間の幅が生まれ、長い退屈が表現された。
1916年(大正
私の好きな短歌、その11
隣室に書よむ子らの声きけば心に沁みて生きたかりけり
島木赤彦、歌集『柿陰集』より(『日本の詩歌 第6巻』中央公論社 p81』
作者の思いが真っ直ぐに詠われていて心にひびく。結句の「生きたかりけり」という詠嘆が効果的である。子が書を読む声を聞いて、その将来に思いを馳せ、楽しみに思うと同時に自分はそれを見届けられないだろうという悲しみがあり、ああ、自分はまだ生きていたいのだ、という素直で深い願