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温泉チャンス!その10【前田温泉】(2024.04.21)
霧と雨に包まれた日曜日。午後から妻の友達とその子供が遊びに来るということで、妻は来客に出すための手土産やお菓子を買いに行って、なかなか帰ってこない。
ようやく2時過ぎに妻は帰ってきて、私は妻にかねてより主張していたとおり外出した。要は「おれいなくてもよくね?」という主張だ。たまにはいいじゃないか、一人で外出しても。
そんなわけで、妻にはさんざん嫌味を言われながらも、強く引き留めるくらいの材料がなかったので、私は小さな水の粒が風で渦巻く家の外に出た。行き先は決まってなかった。
どこへ行くべきか、コンビニの駐車場で少し考えた。そして以前競輪温泉に行った時にみみまりさんに勧められた温泉があった事を思い出した。
そうだ。「前田温泉」だ。なかなか熱いらしいじゃないか。最高だ。是非入ってみたい。これまで何度もその前を通っているにも関わらず、未だに行けてない。時間は中途半端だから尚良い。きっと入っているお客さんも少ないだろう。
そうして行った「前田温泉」。学生さんたちが地元の温泉(ジモセン)を盛り上げようと設置したネオンが、強く降る雨の中とはいえ、明るく輝いていて良い。私は料金箱に入湯料の200円を入れて、暖簾をくぐった。
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この「前田温泉」。別府のジモセンならではの扉を開いたら目の前が浴槽のスタイル。浴槽は半地下で、脱衣所からだいぶ目線が下にある。脱衣の様子が風呂に入っている人から丸見えだ。
だが、それが良い。気持ちがバリアフリーであるというか、人間、風呂と言う場所においては、皆平等で、少しの隔たりもなく、湯の温度と効能を享受できる気がする。
私がひとたび暖簾をくぐると、先に入っていた親子が「こんにちは」と挨拶を投げかけてくれた。なんて気持ちの良いことだろう。私はできるだけ快活に「こんにちは」と返した。その声は天井の高い浴室によく響き渡った。すぐに雨のザーという音がそれに取って代わったけど、私の気持ちの中に余韻はずっと残った。
湯は、噂に違わずとても熱かった。でもいつも書いているように、それが刺々しい熱さではない。丸みと優しさを帯びている熱さなのだ。まろやかで、ゆるやかで、なめらかなのだ。
小さくて楕円形の浴槽に身を浸しながら、窓の外を強く打ちつける雨を見ていた。雑然とした窓の外の風景の中にもくもくと湯気が溶けていく。私の傍らでは親子が体を洗っていて、楽しそうにしている。
私は一度冷水で体を冷やして、それからまた湯に浸かった。今度はあまりお湯を熱いと感じなかった。とても人当たりの良い湯であるなぁと思った。
変な時間であるにもかかわらず、次から次に人がやってきて、とても地元の人に愛されている温泉なのだなと思った。私は後から来た人に努めて「こんにちは」と挨拶した。
とても良い温泉だった。番台さんなどいないけど、皆で支え合っている事がすごく伝わってきた。お湯も素晴らしかった。よく通る場所であるので、また立ち寄らせて頂こうと思う。
なんたる贅沢か!と思う。