切腹ピストルズ@鉄輪おんせん湯けむり市(2024.09.29)
夕方に、別府は鉄輪で行われた「鉄輪おんせん湯けむり市」に行った。
湯けむりがあちこちから立ち昇る鉄輪の、そう大きくない公園にたくさんの店が出ていて大勢の人が集まっていた。そしてそこにはとても自由な空気があった。
妻は面食らっていた。集まった人たちが自由をそのまま体現したような恰好の人たちばかりだったから。広場で思いのままに盆踊りを踊る老若男女のみなさんの、髪の色や服装は本当に多種多様で、別府の、特に鉄輪の開かれた空気感をよく現わしていた。
「オールスターだな」と私は言い、妻は「ここは一体どこ?」と言っていた。子供たちはその雰囲気や空気感に最初馴染めず、広場の中心に近づく事ができなかった。公園の外側の方で腰を下ろして、みんなが輪になって踊るのを遠巻きに見ていた。
でも私はその感じがとても好きだった。何事にも囚われない自由な空気感。ああ、あの人たちの中にはまだあの空気が満ちているんだなと思った。
やがてメインであるライブが始まった。「切腹ピストルズ」という、チンドン屋をめちゃくちゃ激しくパンキッシュにしたようなバンドのライブだ。
演奏はめちゃくちゃかっこよかった。地面を揺らす太鼓の音とノイジーな笛。エレキ三味線の轟音が鉄輪の夕暮れ空に響き渡る。観客はええじゃないかの乱舞よろしくそれぞれが好き勝手に踊り狂って、会場はステージを中心に狂騒の様をなしていた。
その異様な雰囲気の中で、私の子供たちは踊ったり、走ったり、石垣によじ登ったりしていた。私は最初それを諫めていたが、そのうち一緒に踊って、飛び跳ねた。ステージの前から妻の方を見ると、妻もずっとにこにこしていた。遠くからでもそれが良く分かった。
やがてステージの裏からハリボテの鬼が現れて、会場を練り歩いた。次男はそれに怯えたが、長女はそれがたいそう面白かったみたいで、その鬼にずっとついていった。
私は下手くそなりに音に合わせて踊り、手を上げた。ずっと前に忘れていたあの感じが私の中に蘇ってくるようだった。いつも頭の中に充満していた薄いもやみたいなものが、サーッと晴れるような心持がした。
切腹ピストルズ、最高だった。
ライブが終わって妻のところに戻ると、次男は念のため用意してきたベビーカーの中でぐっすり眠っていた。あの轟音の中でよく寝るなと思ったが、お昼寝していなかったので仕方ない。もう限界だったんだろう。
妻はとても晴ればれした表情で「明日金髪にしようかな。いや、坊主がいいか。なんだか色んなものがどうでも良いような気がしてきた」と、だいぶ感化されてしまったみたいだった。会場に着いた時のちょっと引いた感じからえらい変わり様だった。
会場を後にして、はしゃぎ回っていた子供たちに感想を聞いたけど、なんだかまだちゃんと消化しきれていないようだった。でも皆すごく楽しそうだった。妻や私もいつもと全然違う空気を吸う事が出来て、とても良かったと思う。
ありがとう鉄輪、ありがとう切腹ピストルズ。