【実話】タイ射撃会社ものがたり#11 タチバナカオルの結婚
ハケンのオンナ、咲田が辞めたから、というわけだけではないだろうが、私の勤労意欲が急速にさがっていったわね。
しょせん我がまま社長と小銭にがめついオーさん、私の美意識にはふさわしくなかったという事実が咲田への一件で明らかになったというのもある。
社長の高村(こうむら)が、
「やっぱりオンナは駄目だ、男を雇おう」
ばーか、お前が原因だよ。
崎山(さきやま)ってのが求人で入ってきたわ。
やっぱり給料が低くても面白そうな仕事だと私みたいな奇人が来るのね。
まあ、辞めてしまったG学院大卒の若山くんとちがって高卒だからウチくらいでもちょうどいいのかもしれないけれど。
崎山はコンピュータが得意だったわ。
一晩で会社のホームページを作り変えちゃった。
あちゃー
翌日には元に戻っていたわ。
社長の決裁を得ないで勝手にやってどうすんのよ。
だいたい、「タイ陸軍施設使用」、「軍用実弾」とかが売りで、でもそれをうまーく許可を得てるよーな、得てないよーな感じのいーかんじのホームページにしてあったんじゃん。
それをなんか「タイ陸軍」みたいなホームページにしたら、いろいろマズいじゃないの。
でも若山くんよりやり手ね。覚えは早かった。
私の仕事もどんどん振ったけれど、同時に私が「ホテル営業」でかなりラクをしているのも見抜かれたわ。
この頃はもうタニヤ通りの女、フォンとは会わなくなっていたの。
実はパートナー、将来の結婚相手を探していたのね。
もう身をかためたい。
タイの女性はプロ、つまり金銭が発生する間柄やフォンみたいなヒモ状態ならいいんだけれど、素人、ふつうの女性は結婚まで処女が正しいって思想なのよ。
つまり手を出したら、今は結婚しなくても婚約状態になるの。
だからそれまでは慎重だったし、そのときは特に慎重に相手を探したわ。
ホテルの上級スタッフをごちそうになったハナシもしたけれど、あれも相手を見極めてよ。必ず逃げ切れそうな相手だけ。つまり経験済みで男慣れしてそうなタイプ。
ホテルのスタッフ、ガイドや土産物店、商売柄、こういうところの女の子をデートに誘ったわ。
でもイチバン気になっていたのは、同じショッピングモールの同じ地下街の別のブロックで携帯電話屋で働いている女性。
ちょっと茶髪に染めてセミロング、背は165くらい、二重にタイ人にしては高い鼻、口元がセクシー。
そのころは携帯電話が高価だからショップは顔採用なのね。
ショップの制服もシュチュワーデスみたいでカッコよかった。
「ジャズを聴きに行きませんか?」
彼女はトモダチに私がやくざだったらどうしようって、夜の12時までに帰らなかったら警察に電話してって言ったんだって。
高級街、スクンヴィットの私の行きつけ、シェラトン・グランデホテルの2階でジャズの生バンドが入る土曜日を選んで、夕食を共にしたわ。
せっかくのお料理なのに彼女、ほとんど口をつけないの。
ナイフとフォークできちんと食べる自信がなかったって。
私は彼女の出身地、出身大学や家族構成、家族の職業なんかを訊いた。
彼女も妹二人も大卒、一人は院卒、弟は専門卒、実家は田舎で母親が再婚して義理の兄なんかもいるが、かなりの土地持ちだと分かったわ。
そこで安心して私の身分も明かしたの。
つまりあそこの会社は遊び半分で、日本からの不労所得があるって。
アパートも今は体験的に安いトコロに住んでいるだけで、コンドミニアムを借りられる余裕は充分にあるのよって。
そうじゃなきゃシェラトン・グランデに顔パスではいれないでしょう、従業員もみんな顔見知りだったでしょうって。
『タチバナカオル』のイメージが崩れますが、これは【実話】なので書きます。
この女性がのちに私の子どもを二人も産んでくれた人です。