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大エルフ、マクシミリアンの童貞の喪失

(この作品は最後まで無料で読めます)
私は大エルフのマクシミリアン、齢は800を過ぎたところだ。
年齢を越せばだれもが「大エルフ」になれるわけではない。

魔術、「やくそう」から「しびれ薬」までの広範な知識、そしてなによりも魔法をつかう源泉となる魔術力。
これらを総合的に判定され、「長老会」で大エルフの称号が与えられるのだ。

「長老会」は900歳を超えた「大エルフ」11名で構成されている。
奇数なのは大長老が、意見が分裂したときに最終決定権を得るためだ。

エルフはたいてい森の中に棲む。

しかし私のような大エルフは城を持つ。

それも空中に浮かばせる。

側女を5、6人置くのがふつうなのだ。

その側女のエルフの魔力と私の大きな魔力で城はつねに空中をただよう。

私には6人の側女がいる。全員女のエルフだ。とくに意味はない。
反対に女の「大エルフ」は男の従者を持つ。

おたがい、美しいものに世話をしてもらうほうが良い、という程度のことで、「生殖本能」がうすい我々は側女や従者に手を出す、ということがないのだ。
少なくともこの800年は。

しかし、このまえ例年のドワーフとの交易でアメジスト職人のアントンと「商談」が終わったあとの雑談で、意外な心持ちにさせられた。

ドワーフは300年ほどしか生きられない短命の種族だが一族を維持できている。
アントンもまだ70歳にしかならない娘の、なんだったか、モニカとかいう娘の結婚相手を探さねばとさびしそうにしていた。

そして天敵の私たちエルフの将来まで気にかけてくれていた。
「人間と直接商売したくない」などと言い直していたが、そのまえの、「さびしいじゃないか」という言葉は真実味がこもっていた。

ドワーフは嘘がつけない。
ドワーフは成人しても1メートル50センチくらいだ。

エルフは年齢とともに少しずつ成長する。
「大エルフ」の私は2メートル近い。

天井を見上げるような恰好で少しうるんだ眼で「さびしいじゃないか」、と言ったドワーフのアントンの言葉は彼の本心だったのだろう。

「大エルフ」の中でも尊崇を集める私がアントンの言うように子を作れば、エルフの中にもそういう気概をもつ者がでてくるかもしれない。

私は側女の中から順に顔を思いうかべた。

「アデルがいい」

呼び鈴を鳴らす。

「アデルを呼べ」

ほどなくアデルが来る、250歳くらいだったか。
背中から生えている銀の羽根がうつくしい。

「貴様、余との子を作る気はあるか?」
「殿下とのお子をですか?」

エルフの世界で陛下の呼称は長老会のメンバーだけだ。

「そうだ、私との子を作り育てる気はあるか?」
一瞬の間があり、
「殿下が望まれるのであれば」
「そうか、森へ降りよう」

天空の城は側女の魔力を借りているがほとんどは私の魔力で浮遊している。
もしそういう儀式をするのであれば、地上のほうが良い。
城のコントロールと、その子を作る儀式を同時にするには精神の集中力が分断される危険性があるからだ。

適当なエルフの森へアデルと行くとその森は大騒ぎとなった。
「マキシミリアンさま、おいでになるならウサギや子豚などご馳走をご準備いたしましたのに」
「いや、いいのだ、私たちは場所だけ借りたい。子作りをするのだ」
森はさらに大騒ぎになったが、私は森の外に強力な結界を張った。

「さて」
結界の中に羽毛を発生させ、私はアデルに訊いた。
「生殖とはどうするのかな?」
「ふふっ、大エルフのマクシミリアンさまもこの手のことは分からないのですね」
「エルフにも得手不得手がある、貴様は雷の魔法を使えるか?」
我ながら子どもじみた反応だったと思う。

「生殖」の儀式はアデルの言うがままであった。
たかが250歳の子どもエルフに、800歳の大エルフのマクシミリアンがいいように扱われた。
でもそれなりに甘美な時間だったことは言い逃れられない。
これが私の「童貞の喪失」になったのか。

アデルはこの1回では妊娠できず、その後、2回、3回と時を見計らって私に甘美な時間を提供してくれた。

「あぁ、このまま妊娠できなければこの甘美な時間を持ち続けられるのに」
と思ったとたん、
「マキシミリアンさま、お子が授かりかりました」
「うむ、それはよかった、そちの役目はその子を無事に出産させ、私の後継者として育ててくれることだ」

男尊女卑、ではない。
私は大エルフのマキシミリアン。
子どものエルフの育てかたは分からない。
第一、「生殖」のやり方もアデルに教わったのだ。

その代わり、アデルとのあいだの子は私の権力を引き継げる。

また、予想どおり、私が子を作ったことはエルフの世界で一大事件となった。
これでエルフの生殖本能の薄さ、それによるゆるやかな滅亡への道が緩和されるかは分からない。

でもドワーフのアントンのエルフがいなくなったら「さびしいじゃないないか」という真摯な眼差しには私なりに一歩を進められたと思う。


このドワーフやエルフのシリーズはあるnoterの影響で書き始めました。探してみてね。

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